本格的な活動開始から約2年半でメジャーデビュー、そこから約1年半で初の日本武道館単独公演を満員にしたポルカドットスティングレイ。彼女たちのサクセスストーリーは驚異的なスピードで進み続けている。いい曲を作るバンドは、メジャーだけでなくインディーズにもアマチュアにもごまんといるのに、なぜ彼女たちはいち早く世間に見つかることができたのか――その理由こそ、ポルカドットスティングレイというアーティストを語るうえで欠かせない強烈な個性だろう。
わたしが彼女たちを知ったのは、福岡在住の友人からの口コミだった。「福岡にすごくいいバンドがいる。絶対売れる」という文言とともに送られてきたのが“テレキャスター・ストライプ”のMV。再生してみるとコインランドリーを舞台に、白シャツとメガネで揃えた、フロントマンが女子の紅一点バンドが映し出されていた。当時の主流ど真ん中であった四つ打ちビートをミッドテンポで刻むハイカラなギターロック、そして「テレキャスター」という、凛として時雨やキュウソネコカミの曲名でもおなじみの、バンド好きとしては否が応でもハートがくすぐられるワードをタイトルに置くセンス。隅から隅までキャッチーだった。
有名な監督がMVを撮っているのかな?と概要欄を見てみると、どうやら監督はフロントの女子らしい。全国流通盤を出していないバンドがここまでのクオリティでMVを発信できるのか、とインパクトが強く残った。ミュージシャンが音楽以外の活動をすることがクリエイティブであるという価値観が定番化してきた時代に、彗星のように現れたのが彼女たちだったのだ。
その戦略を企てているのがフロントマンの雫(Vo・G)である。『ROCKIN’ON JAPAN』2018年6月号に掲載された2万字インタビューでは、大学に入学してすぐに授業や教授の性質をリサーチして、効率よく単位を取得する方法を自ら導き出していたことを明かしていた。もともとの素質が戦略家なのだ。福岡のアプリゲーム会社に入社したことで、インターネットを使ったプロモーション、効果的なビジュアルアプローチなどのマーケティング力により磨きをかけたのだろう。
楽曲だけでなくMVやジャケットにも注力し、SNSやYouTubeなどを駆使し、すべてにおいてキャッチーなインパクトを芋づる式に放つポルカは、どんどん知名度を上げていった。そしてなによりキャラ立ちしていたのが雫だ。作詞作曲ができて、ギターが弾けて、可愛らしい容姿で、ゲームアプリの開発ディレクターの顔も持っていて、ジャケットも自分で手掛けているという、まさにマルチクリエイター。同性からも一目置かれる存在になったことも、バンドが話題を集めた大きな理由のひとつだろう。
注目を集めたあと重要なのは、興味を持った人間を離さないこと。ポルカの場合その方法のひとつとして挙げられるのが「アンケート」である。彼女はリスナーの求めるものを読み取るだけでなく、リスナーを制作に関与させてしまうのだ。リスナーの立場からしてみると、気楽に参加できるTwitterのアンケート機能で、自分が1票を投じた意見が最も票を集めたことで実現したならば、なかなかにうれしい。実権を握っているのはバンドとはいえ、自分もその計画に加担したような気になれる。そして常日頃彼女は「今ジャケットを描いてるところ」や制作に関するこまめなツイートも忘れない。ライブだけでなくインターネットでも、「雫を追っていれば面白いことが起こる」という絶対的信頼をファンとの間に築いているのだ。
MVにお笑い芸人を起用することも定番化してきている一方で、「けたたましく動くクマ」というLINEスタンプでおなじみのキャラクターを起用するという時代性も加え、先日の日本武道館では全編アニメーションのMVを公開するなど、方法論を増やしていくところも抜かりがない。ワンマンなどでは撮り下ろし映像やSAY YESマン(ライブで振り付けを教えてくれるポルカの敏腕マネージャー)の登場、細部までこだわり抜かれた衣装など、パフォーマンス以外にも楽しめる箇所を山ほど盛り込む。バンドというフォーマットでここまでのエンターテインメントをセルフで築き上げられるのは、やはりもともとの素質に時代が味方したと言わざるを得ない。
いろいろと書き連ねたが、これらの戦略すべては楽曲を生かすためのものだ。楽曲をより鮮やかに見せるために雫はその楽曲の主人公に憑依するし、引き立てるために様々な視覚的アプローチを施策する。「曲だけで人の心をひきつけられる曲こそ本物だろう」という意見も理解できる。だが、曲を生かすために使える手札を全部切る姿も、その手札を増やすために尽力する姿も、21世紀ならではのクリエイティビティと言えるだろう。
だが、こうやっていろいろと長々書いてみたものの、ポルカの魅力や雫の長けている点は、アイディアなどの前に、発想を次から次に実現させる行動力という、非常に原始的なマンパワーにあるのではないか、とふと思った。活発に動く人々が魅力的に見えるのは、いつの時代も変わらないのかもしれない。雫はいったい今後何を仕掛けてくるのだろうか? まずは9月の新作『ハイパークラクション』を心待ちにしよう。(沖さやこ)
ポルカドットスティングレイの音楽を支える雫の5G的なクリエイティブ戦略を紐解く
2019.08.01 15:00