King Gnuの音楽のポップで美しい姿は4人の熱い人間性と繋がりの賜物である

King Gnuの音楽のポップで美しい姿は4人の熱い人間性と繋がりの賜物である
King Gnuを観ると「部活っぽいなあ」と感じる。もちろん褒め言葉だ。ともすれば常田大希(G・Vo)を中心にして語られることも多いKing Gnuだが、最初期はともかく、最近の楽曲ではとくに、それだけでは言い表せない多様性と歪さを感じることが多い。それが部活っぽいのだ。楽曲のクオリティもさることながら、この4人が集まったときに醸し出す「熱くて近くてゴツゴツした」空気こそ、このバンドの大きなポイントであり、彼らがポップスである理由なのではないかと、彼らのパフォーマンスに触れるたびに思う。

東京藝術大学に入りながらも違和感を感じて1年ほどでドロップアウトし、早くから自分自身の表現を追求してきた常田大希。常田の幼馴染で、同じく東京藝術大学で声楽を学びながら、舞台俳優などにも挑戦してきた井口理(Vo・Key)。主にジャズ畑でセッションミュージシャンとしての経験を重ねてきた新井和輝(B)。プロミュージシャンの両親を持ち、以前はダンサーを目指していたこともあるという勢喜遊(Dr・Sampler)。この4人、見た目もバックグラウンドもミュージシャンとして志向するものもバラバラである。

SNSやメディアでの発言から透けて見えるキャラクターを見ても、真面目な新井や秘めたパンクを感じさせる勢喜、バンドの頭脳としての重みを見せる常田、ツイートのみならず、ご存知のとおり毎週木曜深夜のニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』でもそのキャラクターを開花させまくっている井口……と、基本的には4人揃って同じ方向を向きながら、それぞれが少しずつズレている。そして、そのズレを4人がお互いに許容し、リスペクトしている。その感じが、さまざまな経歴や力をもったメンバーが「たまたま」集まってひとつの目標に突き進んでいく「部活」のあの感じを思い起こさせるのかもしれない。メンバーのインタビューなどを読むと、たとえばバンドの根幹ともいえる「社会を巻き込んでいく」という命題に対してさえ、メンバー間では意見の相違があったりするのだが、それがKing Gnuという集団のおもしろさなのだ。

彼らは、単に音楽的素養や経験値という意味でいえば「エリート」と言ってもいい面々である。しかし、さまざまな発言を振り返ればわかるとおり、彼らは演奏技術や音楽的リテラシーの高さによってのみ集まったメンバーではないし、ましてや、常田のイメージを体現するための「パーツ」として選抜されたという類のものでもない。むしろ常田のイメージに異物を持ち込み、それによって相対化されたポップスを生み出していくために、このバンドはある。

知ってのとおり、King GnuがKing Gnuになる前、今では前身バンドとも言われているSrv.Vinciでは、当初常田の個人プロジェクトの性格が強く、メンバーも流動的だった。それが今の4人になった瞬間にくっきりとした輪郭をもち、そのことがプロジェクトの性格も名前も変えていった。そしてそれと同時に、彼らの楽曲は明確にポップに変貌を遂げていった。

たとえば、改めてアルバム『Sympa』を聴き直してみる。“Slumberland”のノリを決定づけているのは勢喜のタイトでグルーヴィーなビートだし、“Prayer X”で聞こえてくる新井の弾くベースにはやはりジャズのDNAが染み付いている。井口の歌がなければ“Don't Stop the Clocks”や“The hole”は成立しないし、それらすべてを首謀者である常田が受け入れなければKing GnuはKing Gnuにならない。ひとり対3人でも、ふたり対ふたりでもなく、4人だからこそ鳴らせる世界を、King Gnuは鳴らし続けてきたのだ。

メンバーも参加している常田の別プロジェクトmillennium paradeがKing Gnuとはまったく違う風景を描き出していることからもわかるように、同じ常田のクリエイティヴィティが中心にありながらも、King Gnuは何よりも「バンドであること」、「J-POPであること」を重視したプロジェクトだ。そして、元来もっとマニアックでエッジィな嗜好をもった彼がそこに向かうためには、彼自身がもっているものではない新たな要素による強烈な異化作用が必要だった。そのために集まったのがこの個性的なメンバーだ。

あるひとつの楽曲の上で、4人の培ってきた技術や知識や思いが交錯し、重なり、最終的に真ん中にポトリと落ちる。そこにKing Gnuのポップスとしての普遍性が生まれる。『Sympa』はその最初の到達点だと言えるし、ここでバンドのメカニズムや基本的なバランスを確認できたからこそ、その先でさらにポップに振り切った“白日”や“飛行艇”や“傘”のような曲も生まれてきている――そんな現在地に、King Gnuは今立っている。(小川智宏)
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