最初にこだまするのは縁日を賑わせる花火の爆発音。そこから不穏なオーケストレーションが空間をねじ曲げると、“Fly with me”の強烈なイントロが問答無用に叩きつけられる。常田が影響を公言してきた、フライング・ロータスの『ユーアー・デッド!』にも通じるサイケデリックなプレリュードを皮切りに、アウトサイダー集団のパレードがSF世界と現実の間を縫うように進行していく。
King GnuがJ-POPでの成功を狙った確信犯であるのに対し、millennium paradeは当初から世界基準のアートを標榜してきた。よってアルバムの前半戦は、日本の狭い常識にとらわれないアクロバティックな表現のオンパレード。偏執的なトラックメイクと実力派プレイヤーの生演奏を織り交ぜた、規格外のサウンドがアリーナ級の規模感で押し寄せる。複雑なビートで高揚させる“Bon Dance”から、Friday Night Plansを迎えたクールなR&B“Trepanation”と続く緩急自在の流れは秀逸だし、とりわけ圧巻なのは「ミレニアム=千年後の未来」をテーマにした“2992”。レディオヘッド“ザ・ナショナル・アンセム”を彷彿させる獰猛なベースラインと、天を舞うようなオーケストラを融合させたこの曲は、野生とアカデミズムを巧みに使い分ける常田の真骨頂だろう。
しかしこのあと、ミレパの構想盤と位置づける2016年のアルバム『http://』と、King Gnuの初期楽曲にランダムアクセスするインタールード“TOKYO CHAOTIC!!!”を挟んでアルバムの様相は一変。Srv.Vinci時代の楽曲を再構築した“Philip”のあと、井口理を迎えた終盤の“Fireworks and Flying Sparks”“FAMILIA”では、ここまでの英語詞ではなく、常田自身が作詞した日本語のリリックによって、パーソナルで混沌とした歌が届けられる。ボン・イヴェール的とも言える美しく歪んだエレクトロニックバラードで光と闇、愛と孤独を歌いあげ、アルバムは厳かなムードとともに幕を閉じる。
花火がモチーフの本作のアートワークには、2020年に失われたものへの「弔い」と、新しい年を迎えたことへの「祝い」が描かれているという。パンデミックは社会や業界構造の行き詰まりを浮き彫りにした。もはや元通りにならないだろうし、これまでのやり方は通用しない。後戻りできない世界をどう生きるのか。未来に向けたそのひとつの答えがここにある。
それと同時に、本作は二度とはやってこない青春時代の結晶でもある。常田大希という孤高の音楽家の歩みに加えて、「百鬼夜行」になぞらえ集まった個性豊かな同世代の仲間たち――石若駿や江﨑文武、ermhoi、King Gnuの面々、そしてPERIMETRONから成るコミュニティが、表舞台に立つまでの汗と涙もここには刻まれている。特大の打ち上げ花火をあげたパレードは、この先どこへ向かうのか。無限の可能性を感じさせるという意味でも、実にセルフタイトルがよく似合うファーストアルバムだと思う。(小熊俊哉)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年3月号より)
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2021年3月号表紙巻頭にmillennium paradeが登場!
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