sumikaはなぜ「物語」にこんなに寄り添えるのか? 『キミスイ』『MIX』『おっさんずラブ』まで

sumikaはなぜ「物語」にこんなに寄り添えるのか? 『キミスイ』『MIX』『おっさんずラブ』まで
映画、ドラマ、アニメ、演劇、CM、液晶ゲームなど、世の中には様々なコンテンツが存在する。その世界観をより強固に、かつ広げていくのがタイアップソングだ。近年若手アーティストも多数タイアップソングを書き下ろす機会に恵まれ、多くのアーティストたちが作品の成分と自分たちらしさの共通点を見出し、それを楽曲へと昇華している。

そのなかでもsumikaは、作品の本質を追求して楽曲へ落とし込むだけでなく、それを自分たちの純粋なメッセージとして発信することに成功しているバンドである。それを成し得るのは、彼らの作品への理解度の高さあってこそ。他者の想いを細部までキャッチする鋭い感受性と、作品への深い敬意を持っていなければ実現不可能な芸当だ。

まず、彼らにとって初のアニメタイアップとなった『ヲタクに恋は難しい』のオープニングテーマ“フィクション”。作品が不器用なオタク男女のピュアなラブストーリーゆえ、同曲は歌詞に漫画やアニメ、小説を連想させるワードを盛り込みながら、人生や日常を「物語」として描いていく。身近な題材をスマートに綴り、軽快でゴージャスな音色に乗せることで、一人ひとりの人生の尊さを歌った。


その約半年後は、劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』のオープニングテーマ、主題歌、劇中歌を担当。片岡健太(Vo・G)は同作に対して『ROCKIN'ON JAPAN』2018年10月号のインタビューで、「(大事な人が)いなくなって寂しい気持ちはあるけれど、大事なのはその先で、きちんとそのことを受け止めて、どう成長していくかというひとりの人間の物語――その勇気とか、それでも歩んでいくっていう姿勢に、心地好い涙が出るということが理解できて」と語っている。

オープニングテーマとして書き下ろされた“ファンファーレ”は、バンドの力強さと爽快感、ポジティブな感情が水しぶきのように煌めき、溢れだす楽曲。メインキャラクターのふたりが出会うことでお互いの人生が新たな色を帯びていくファンファーレでもあり、悲しみを乗り越えたその先に鳴り響くファンファーレでもある、非常に許容力の大きな楽曲へと仕上がった。


作品と彼らの音楽の結束が格段に強まった決定打はTVアニメ『MIX』のオープニングテーマ“イコール”だ。あだち充漫画ならではの青春の景色や匂いが凝縮された、まさに作品へ捧げる楽曲。それをsumikaらしさというものに落とし込むことができたのは『Chime』という多彩なフルアルバムを完成させて、ライブをするなかで自分たちの筋力を上げてきたからに他ならない。そこに誠実に作品へと向き合って核を掴むという思慮深さと精神力が加わるのだから、“イコール”が『MIX』の成分とsumikaの成分をどちらも100%発揮できたことは必然なのだ。


追い風に乗った彼らが書き下ろしたのが、2019年12月11日(水)にリリースするシングル曲の“願い”と“ハイヤーグラウンド”。TVドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』と、劇場アニメ『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』という、多くのファンを持つ作品の書き下ろし主題歌である。プレッシャーとも言える状況かもしれないが、そこはsumika。人の想いを受け取れば受け取るほどに強くなるバンドだ。“願い”では大切な人やものへの掛け替えのない喜びや切なさ、深い愛情を、“ハイヤーグラウンド”では一人ひとりの《自由のストーリー》が集まることで出来上がった《夜明けのパレード》で未来へと進んでいく様子を描く。それはそれぞれの作品の本質的要素だ。

冬のバラードである“願い”のラストにある《春》という言葉は、主人公・春田創一(田中圭)を示唆しつつも、凍てつく寒さのなかで想いを寄せる麗らかな春が重なる。4人の奏でるサウンドやボーカルが勢いよく突き抜けていく“ハイヤーグラウンド”は、キャラクター一人ひとりが自分の個性や美学を磨くことで物語が展開していく『ヒロアカ』の世界観を体現していると言っていい。

ここまで作品と寄り添うどころか、作品の懐にまで入り込んでしまえるのは、sumikaが人の愛をまっすぐ受け止めることができるからだろう。タイアップソングごとに新しい顔を見せると同時に、自身の深い精神性や美学も提示する彼らに、舌を巻かずにはいられない。(沖さやこ)

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