あいみょんが『news zero』テーマソング“さよならの今日に”で踏み出した日本のシンガーソングライターとしての新しいステージとは

あいみょんが『news zero』テーマソング“さよならの今日に”で踏み出した日本のシンガーソングライターとしての新しいステージとは - 『さよならの今日に』『さよならの今日に』
あいみょんが書き下ろし、年明けからオンエアされている日本テレビ系『news zero』のテーマ曲“さよならの今日に”。2月14日に配信リリースされたこの曲を1日の終わりに聴いて、あなたは何を感じるだろうか。僕はこの曲に触れるたびに、あいみょんに「なった」ような気分になる。世の中で起きたさまざまな出来事に対して、何を思い、何を感じ、何を言うのか。あいみょんというシンガーソングライターの秘密が無防備にさらけ出されている、そんな気がする。そしてその先で、自分自身のことを考えている自分に気づく。

昨年は、“ハルノヒ”(『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』)、“真夏の夜の匂いがする”(TBS系ドラマ『Heaven?~ご苦楽レストラン~』)、“空の青さを知る人よ”(映画『空の青さを知る人よ』)と、映画やドラマのタイアップを通して新曲を次々と発表してきたあいみょん。それらの楽曲は、どれもコラボレーションする作品の物語に重ねながら、その真ん中にある「思い」を彼女一流の言語感覚と情景描写で浮かび上がらせるという意味で、あいみょんの真骨頂といえるものだった。

しかし、この“さよならの今日に”はそれとは少し手触りが違う。音楽的にもぐっとフォーキーな匂いが強まり、コード進行とメロディラインはどこか薄暗い。そして《泥まみれの過去が/纏わりつく日々だ/鈍くなった足で/ゴールのない山を登る》というヘビーな心象風景から歌い起こされる歌詞。戻らない昨日と問答無用でやってくる明日。整った起承転結も、美しい結末もない。《明日をどう乗り越えたかな》という投げかけの先で鳴る永遠に続くかのようなアウトロが、終わらない日々を象徴する。その読後感ならぬ「聴後感」は、“空の青さを知る人よ”や“ハルノヒ”とは明らかに違うものだ。

昨年末に『news zero』内で放送されたインタビューで、あいみょんはニュースとの向き合い方について語っていた。ニュース番組を毎日欠かさず観るという彼女は「すべて過信しすぎてもあかんという距離感で観てます」と言いながらも、同時に「自分の人生にまったく関係なかった人のことまでも自分の人生になってしまう。勝手に人の人生に踏み込んでしまいますね」とも語っていた。

実際、あいみょんというアーティストの、特に歌詞における特筆すべき才能は、その感情移入力だと思う。本人の口からもたびたび語られているとおり、彼女は部屋に転がっている段ボールや冷蔵庫に彼女が言うところの「せつなさ」、つまり感情を見出して、そこに自分を重ね、物語をつむぎ、曲にしてしまう。彼女が映画やドラマのタイアップですばらしい曲を生み出し続けることができているのはその力ゆえだ。

では、ニュースという不定形で日々生まれ消えていくものを前に書き下ろした“さよならの今日に”で、あいみょんは何に感情を重ね歌っているのだろうか。それはもちろん、毎日起きる事件や事故、嬉しい出来事に悲しい出来事。その数々を見つめ、心をざわつかせている彼女自身以外にない。この曲は物語やニュースの主人公ではなく、それを画面を通して見ているあいみょん自身の一人称の歌なのだ。それはたとえば“生きていたんだよな”での彼女の視点とも似ているが、あの曲のように個別性や具体性にぐっと感情を寄せていくのではなく、心の内側にあるモヤモヤとしたものをトレースするようにして“さよならの今日に”のあいみょんは歌う。だからその言葉は断片的になり、答えは出ないのだ。

あいみょんはニュースを見ながら「人の人生に踏み込んでしまう」と言っていた。それは取りも直さず自分自身の人生にも深く潜るということであり、自分の感情に向き合うということだ。

ビジネスのシーンで使われる「自分ごと化」という言葉がある。要するにすべてに当事者意識をもって取り組みなさいということなのだが、言うまでもなくそう簡単なことではない。仕事や授業ならまだしも、世の中にあふれるニュースに対してならなおさらだ。ニュース番組を観ていちいち自分の感情に向き合っていたら疲れてしまうし、情報として目を通しておくぐらいが今どきちょうどいいのかもしれない。でもそこで、そうできない(しない)あいみょんが歌うこの曲が聞こえてくる。《謎に満ちたあいつは/明日をどう乗り越えたかな》と投げかけられた問いかけは、そのまま自分は明日をどう乗り越えようかという自問に変わる。そこに、この曲がニュース番組のテーマソングとなった意味と、あいみょんというアーティストの大事な一面がある。“さよならの今日に”はそんな歌なのだ。(小川智宏)

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