あいみょんがニューシングル『ハート』をリリースした。表題曲は、ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』の主題歌として、すでに流れているラブバラード。高く淡い歌声で、この上なく繊細な表現を見せながら、「いい曲」というところに関してはもちろん裏切らない。恋にまつわるエトセトラを繊細に書き込んだ歌詞も、大いに共感を呼ぶだろう。
カップリングは、おなじみの童謡と同じタイトルということで、リリース前から「どんな曲なんだろう?」と話題になっていた“森のくまさん”。“ハート”と続けて聴くと、同じラブソングでも、描く角度によってこうも変わるとは!と驚かされずにはいられない。
今回は、この2曲に秘められた想いや成り立ちを、徹底的に聞いた。なお、11月30日(火)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』1月号には、あいみょんの近況も加えたインタビュー全編が掲載されるので、そちらも楽しみにしていてほしい。
インタビュー=小栁大輔 撮影=オノツトム
15歳ぐらいの時に使ってたクマのぬいぐるみとか缶ペンを残してるんですよ。そいつらが羨ましくなる時がありますもん。「こんなに大事にされて、お前らええなあ!」って
――今年はずっとツアーをまわっていたよね。「ほぼ1年まわってるんじゃないかな」
――11月30日の武道館は、ツアーを受けて、やるものになるんだよね。
「たまたま……東京だと、日比谷(野外大音楽堂)がほんまに相性悪くてできなかったんで。去年の『風とリボン』もできなくなってしまい、今年の『傷と悪魔と恋をした!』もできなくて、東京だけできてないんですよ。でも、あの規模の会場って他にあんまりないんです。東京で、席があって、ホールってなると難しくて。それで『武道館やれないかな』って冗談っぽく言って。簡単に取れる場所でもないですし、どないしよっかな〜ってふわふわしたままいたら、スタッフさんに『びっくりするよ、11月30日が取れた』って言われて。その日、デビュー日なんですよ」
――そうだね!
「そう、たまたま。デビュー5周年の日が空いてて『えー!?』みたいな(笑)。やれってことかあ、って。それで決めました。なので、もともと武道館はやるつもりなかったんですよ。沖縄ファイナルで締めれたらいちばん最高!って思っていたので。でも、延期になっちゃう公演があったり、一旦のファイナルが大阪になったりとか、紆余曲折あり、間で武道館をやりつつも、結局はファイナルは沖縄になったり。だから、そんなに武道館を特別とは思わず。もちろん5周年の記念ではあるんですけど、ツアーの延長っていう感覚です」
――今回の“ハート”を聴いて、「あいみょんはちゃんと一周まわる人なんだなあ」って思いました。
「ほんまですか?」
――うん。一周まわって、ちゃんと大事なところに帰ってくる人というかね。そういうサイクルがあるんだなあと、あらためて思った。
「サイクルの話で言うと、マネージャーさんとかに『また路上ライブからやったほうがいいんじゃないか』って謎の相談をし始めるタームがあって(笑)。固定のファンの子たちがいて、ライブができているのは、すごくありがたいですけど……何か効果的に、新しく私の音楽を聴いてくれる人を増やしたいなって。どうしようかしら? このほうが喜ぶんじゃないかな?って考えていますね」
――でもあいみょんはさ、今の話で言ってみると、喜んでもらうためのサービス的な部分を、当然考えていると思うんだけども。一方で、ただいい曲を作り、ただいい歌を歌い、その結果みんなが喜んでくれる、シンプルな関係性も望んでいるような気もするよね。
「結局、いい曲を作って、いっぱい聴いてもらって、いっぱい歌ってくれて、思い出にしてもらって、いつか『懐かしいな』って言ってもらえる存在になれたら、いっちばんいいなって思っていますね。懐かしいものって、大事にされるじゃないですか。私、いまだに15歳ぐらいの時に使ってたクマのぬいぐるみとか缶ペンを残してるんですよ。そいつらが羨ましくなる時がありますもん。『こんな大事にされて、お前らええなあ!』って(笑)。私の楽曲も『懐かしい』と思ってもらえるものになれば、大事にしてもらえるのかなって」
――でも、また感動しちゃいました。“ハート”も、“森のくまさん”も素晴らしいよ、本当に。
「“森のくまさん”も?(笑)」
――え、これ、とんでもなくいい曲じゃない?
「ああ、うれしいです。“ハート”と“森のくまさん”の主人公が置かれている状況は、わりと一緒なんです。でも音楽や言葉のおもしろいところで、同じ状況に置かれていても、これだけ違う曲になるのはいいなあと思って」
――同じシングルに入るんだけど、あいみょんの中では、この2曲は「裏」と「表」みたいな感じなの?
「いつもカップリングって、そういうテーマで入れてるんですよね。表題曲とどこか似ていて、離れすぎていなくて――ぐらいがいいよね、っていう。対比して聴けると言いますか」
タイトルに意味込めすぎ系シンガーソングライターなので(笑)。ハートにも種類があるし。もともとはいびつな恋愛を表すマークとして開発されたんじゃないかって
――この2曲を書いた時期は近いの?「“森のくまさん”は、(コロナ禍の)自粛期間ぐらいです。“ハート”に関しては、珍しく歌詞を最後までイジりまくったので、こないだですかね」
――デモから歌詞を変えるのって、あいみょんにしては、珍しいことじゃない?
「こんなに変えたことはないですね」
――最初に書いた歌詞は、どこか生々しさ、ドラマ性が足りないと思ったのかな。
「いちリスナーとして聴くと、なんも引っ掛からへんなって。いい歌詞が書けた時って、自分のデモでも繰り返し聴いちゃうし、覚えちゃうんですよ。でも今回は、前のバージョンを聴いた時に――サビはそのままの部分が多いけど、Aメロとかようわからへんな、嫌やなって思っちゃいましたね」
――これは僕の仮説だけど、歌の変化が関わっているんじゃないかな。今のあいみょんの声の響かせ方は、5年前とは違うと思うから。
「違いますね。今回は結構高いところで歌っているんですよ、ちょっとかわいらしい声で。そのイメージはもともとあって、でも昔の歌を聴くと全然違いますね。今のほうが、抑揚とか説得力のつけ方を覚えてきてるのかもしれないです。それに(歌詞が)うまくハマらなかったのかもしれない」
――今の歌声だと、高いところでかわいく歌っても、最初の歌詞を書いた当時よりも、多くの感情を表現できるようになっているだろうから、そうなると歌詞にもっと多くの情報を書き込まないといけなかったんじゃないかな。
「そうですね、言葉数が少ないのが気になっちゃって。生活感のなさが中途半端やった。どこか1ヶ所でもいいから、急に日常が垣間見えるところがほしいと思って《起きてすぐ描くアイラインも》って歌詞を書いたんです。『好きな人の前ではかわいくいたい』『常にきれいって思ってもらいたい!』という気持ちを描きたかったんですよ」
――なんて言うの、自分自身を守る、作る、装備するものっていう。
「そう、装備するもの」
――「リラックスして目が覚めました」じゃなくて「装備しなきゃ」っていう。そこにこのふたりの関係性があるよね。
「そうそう、『装備しなきゃ』って感じ。タイトルも、もともとは全然違くって。最初は、お花の名前だったんです。だけど、歌詞もこれだけ変えたし、もう違うものだったんで」
――なんでこのタイトルになったの?
「何個か候補があったんですけど、いちばんどっちつかずでいいかなって。私、曲のタイトルに意味込めすぎ系シンガーソングライターなので(笑)。“君はロックを聴かない”とか説明系じゃないですか。あと“愛を知るまでは”、“桜が降る夜は”とか、曲の中でいちばんインパクトのある言葉をタイトルにしがちなんですけど。でもハートって、ドキドキのハートかわからん、いろんな種類があると思いますし。世間的にハートってラブラブでかわいらしいイメージですけど、曲の内容を聴くと、どういうハートかわかるというか。崩れそうなハートっていう感じですかね。で、ハートはもともと、逆にいびつな恋愛を表すマークとして開発されたんじゃないかって思ったんです」
――だから、赤のふっくらした絵文字のハートではないかもしれないね。
「上は柔らかくて丸いけど、下はすんごい尖ってるから。棘のある恋愛を表す表記なんじゃないかなって。だから『ああ、ハートって変な形やな』から始まりました」
――確かにそうだよね。よくよく考えたら。
「ハートにもいろんな形や色がある。携帯の絵文字も、赤だけじゃないじゃないですか。青のハートって、なんのために使うねんって思いますけど(笑)、まあ、そういうことかって思っちゃいます。心っていろんな色があるから。この“ハート”の色のイメージは、紫です。紫って、赤と青の中間色なんですよ。男と女の中間色みたいな感じで、交わったものだから、いいなあって」
――ということは、いちばん曖昧というか、どっちつかずな気持ちというか。いちばん紫色のハートが書けたから、この曲は“ハート”っていうタイトルが相応しいと思ったのかな?
「そう、いびつな恋愛だからこそ“ハート”って名前を付けようと思って。“愛を知るまでは”、“桜が降る夜は”って続いたので、スパッとしたタイトルもありかなって。歌ってて、“ハート”がしっくりする状態に仕上がったので、それもよかったですし。一応バラードになるのかな? それも久々で、新鮮でした。でも“裸の心”みたいに、めちゃめちゃシンプルにはしたくなくて、もっと痛々しくしたかったので、こういう歌詞になったんですけど」