3月のグラミー賞授賞式で“ヒー・ウォント・ホールド・ユー”が最優秀アレンジ、インストゥルメンタル及びボーカル賞に輝いたイギリスの驚異のマルチ・インストゥルメンタル・アーティスト、ジェイコブ・コリアー。2020年のアルバム『ジェシー Vol.3』は惜しくも最優秀アルバム賞を逃すことになったが、ジェイコブは実は17年から度々グラミー賞の最終候補に名前を残す活躍を見せてきた若き鬼才だ。
もともと自作曲やカバーの動画で大きく注目されたジェイコブだが、2016年にデビュー作『イン・マイ・ルーム』をリリースすると収録曲でスティーヴィー・ワンダーのカバー“ユー・アンド・アイ”が17年のグラミー賞に輝くことになった。タイトル曲“イン・マイ・ルーム”ももちろん、ザ・ビーチ・ボーイズのカバーだったが、当時ジェイコブはジャズ・アーティストとして紹介されることの方が多かった。
それはジェイコブが発揮するすさまじいアレンジとインストゥルメンタル・パフォーマンス、そして自身のオリジナル曲で聴かせる複雑な構成やコード進行もまた、ジャズと形容せざるをえないものだったからだ。
しかし、その後明らかになったのは、ジェイコブの志向する音楽性は、R&B、ファンク、ロック、ポップ、ア・カペラ、ジャズ、ポップなどとなににも縛られないもので、26歳ですでにこの境地を自在に表現していること自体にただ驚愕するしかない。
その後ジェイコブは2018年から『ジェシー』4部作の制作に乗り出し、この作品はある1日を4つに分けてそれぞれのアルバムで表現していくというコンセプトになっているという。たとえば19年の『ジェシー Vol.2』がジェイコブの多岐にわたる数多くのインスピレーションをすべて集めて披露するものだったのに対して、最新作『ジェシー Vol.3』がほぼ全編モダンR&Bを追求するサウンドになっているなど、作品ごとの変化と内容の違いもとても刺激的だ。
今年はこの連作の総仕上げとなる4作目がリリースされる予定で、ここでなにを聴かせてわからせてくれるのか、注目されるところだし、とても楽しみなのだ。 (高見展)
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