ビョーク、新プロジェクト『Biophilia』を語る

ビョーク、新プロジェクト『Biophilia』を語る - 2007年作『ヴォルタ』2007年作『ヴォルタ』

6月26日にアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアでiTunesリリースされたビョークの新曲“Crystalline”。これまで噂になってきたビョークの新作『Biophilia』からの最初のシングルとなるが、この『Biophilia』、とてつもなく壮大なプロジェクトだったことがわかってきている。

もともとビョークは『Biophilia』とはアルバムであり、アプリ・アルバムであり、ライブであり、ウェブサイトでもあると説明しているが、特に話題になっているのはiPadのアプリとしてもリリースされるところだ。何度か報じられてきたように、このiPadアプリはおおもとのメイン・アプリと収録曲10曲に対応した個別のアプリで構成されていて、曲それぞれに応じたソフトをiPadで操作することによって、曲も同時に聴くことができるという。ただ、ビョークにとってはiPadのタッチパネルが重要だったようで、タッチパネルがひとつのきっかけとなったことを次のようにステレオガムで語っている。

「『ヴォルタ』ツアーでタッチスクリーンを使って、そのポテンシャルにすごく興奮したのね。ステージで見せびらかして派手なノイズを鳴らしてみせるっていうのを繰り返すんじゃなくて、もっと掘り下げてみて、これで作曲をしたいと考えたわけ。このタッチスクリーンを使えば、半分教育的なものもできるし、自然の10種類の要素についてそれぞれ曲を書けるなと思って。水晶がどんどん結晶化して大きくなっていく姿を追って、それでひとつの曲にできるし、月の満月から新月までの満ち欠けを追ってそれを曲にもできる。『すごいな、これで自然の仕組みと一体化できる』って思ったのね」

ただ、こうしたアイディアからすんなり実現へと動いたわけではなくてかなりの紆余曲折を経たこともビョークは語っている。たとえば、アイスランドの金融危機後の不況でテナントを失った建物を利用して、1部屋に1曲という構成のミュージック・ハウスとしてプロジェクトを進めようとも考えていたそう。ただ、具体的な方策がわからなくて悩んでいたところへ、ナショナル・ジオグラフィック誌とコラボレーションをやらないかという話が舞い込んでプロジェクトが本格的に動き出したという。

また、ビョークとしてはレコード契約も切れたままでどことも契約していない状態だったので、当初はナショナル・ジオグラフィック誌を新レーベルにという構想もあったそうだ。ただ、ビョークが「ミュージック・ハウス」構想に固執したことでナショナル・ジオグラフィック誌側も尻込みしてしまい、そこでナショナル・ジオグラフィック誌が代案として提案したのが、博物館の1室ずつで別個の映像を上映するという案。これにビョークも乗ることに決めて、この時点で映像作家で、長年のコラボレーターでもあるミシェル・ゴンドリーに声をかけたとか。

この段階でビョークはスタッフらと今回のプロジェクトのシナリオを書き上げ、曲もほぼ書き上げていったとか。ただ、ミシェルが一時別の仕事で現場から離れることになって、さらに実際の作品のプレゼンテーションも現実的なプランを詰めていくとなかなか難航して頓挫しかけたところへ、iPadが発売され、一気にこちらへ乗り換えることに決めたとビョークは説明している。

「これをまたアプリにしていくっていうのは本当に簡単なことで、なにもしないのと同じくらいに楽だったのね。というのも、シナリオもできてたし、曲もできてたし、インタラクティヴはどうするのかも決めてあったし、自然の要素も決めてあったし、そのためにすでに2年間の作業を続けてきたからなのね」

その後、ビョークはアイスランドにiPadのアプリ制作会社でビョークとのコラボレーションに興味を持つ会社各社を呼び寄せ、この構想を談判。その後、各社協力して制作費ゼロで作品を仕上げて、収益をその後全員で山分けするという合意に至ったとか。「もう『やったあ! かつてのパンク時代みたいじゃない!』って思ったけど、基本的にそういう感じで今はやってるの」とビョークは語っている。

ビョーク自身は音源のリリースに関してはこのアプリとiTunesでのリリースのみを考えていたそうだが、マネージャーに「きみの作品を買う人のほとんどはCDを実際に買う人たちなんだよって説得されて」、ノンサッチ・レコードと今回の作品のみの単発契約を交わしたという。そして、今回のプロジェクトのセッティングに3年半もかけただけあって、この先は音楽に専念したいとビョークも語っている。つまり、現時点で10曲となっている収録曲も今後、どんどん追加される見込みがあるとかで、少なくとも「アルバム2枚分くらいまではいくんじゃないかな」とビョークは語っている。

また、今回のプロジェクト用に開発したさまざまな楽器も従えて現在、マンチェスター・インターナショナル・フェスティバルでライブ展開も始めたビョークだが、理想としては各地での長期滞在を目指しているのだとか。その方策として、ライブを開催しない日や日中には子供たちを対象にした音楽ワークショップを開くなどといった活動を目指すという。
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