10月にひとりだけ無罪判決を言い渡され、釈放されたロシアのプッシー・ライオットのメンバー、エカテリーナ・サムチェヴィッチが『ザ・ガーディアン』紙の取材を受け、その後の心境などを吐露している。
プッシー・ライオットの3人のメンバーは現プーチン大統領政権への反対デモを2月にパンク・ロック・ライヴとして断行し、ロシア正教会のプーチン支持への抗議としてモスクワのキリスト救世教会で即興ライヴを行い、その後逮捕された。3人は8月17日に宗教的憎悪による騒乱罪に問われ、2年の禁固刑という実刑判決を受けたが、判決に対して控訴を起こし、エカテリーナだけ無罪放免となっている。
10月10日にバンドの控訴に対して行われた審理で判事は実刑判決を受けていたプッシー・ライオットの3人のメンバーのうちのエカテリーナの言い分を認め、エカテリーナのみ釈放という判決を下した。エカテリーナの弁護士は控訴でエカテリーナが問題のパフォーマンスの際、すでに警備員らによって会場から放り出されてしまっていたため罪状にはあたらないと訴えていた。
エカテリーナによれば、拘置所に残されたほかの2人のメンバー、マリア(マーシャ)・アレキナとナデズダ(ナージャ)・トロコニコヴァのふたりはその後引き離され、それぞれにモスクワに住む家族からも引き離され、遠隔地の刑務所へ移送されたという。
その後、エカテリーナは自分の友人を踏み台にして自分の自由をかちとったという批判も受けたが、自身はなんの後ろめたさも感じてはいず、2人のため語らなければならないという責任ばかりを感じているという。
「こうやって早く釈放されたから、ここでこうやってグループを代弁して語ることもできるわけ。わたしたちは裁判にも関わって、しかもそれを当事者側から見たわけだから。その経験を今のわたしは語れるということなのね」
特にエカテリーナが主張したいのは、外から見ると普通に裁判が行われたように見えるかもしれないが、実際には自分たちが抗弁する権利をまったく剥奪されていて、それは不本意などというものではなく、ただ単に絶望的な状況だったということだそうだ。
「自分たちが別に法廷の地下室にいたところで結果はなにも変わらなかったはずだ」とエカテリーナは語っていて、自分たちにはなんの抗弁の術も与えられていなかったと訴えている。「物理的にわたしたちが出廷したかどうかなんて、まったく関係のないことだったから」
「今のわたしはプッシー・ライオットの公判にすべてのエネルギーを使っていて、それはまだこれからも続くことだから」とエカテリーナは語っている。今後、ストラスブールにある欧州人権法廷であらためて上告を行うとエカテリーナはしていて、モスクワの法廷で11月にプッシー・ライオットの映像作品がすべて過激だと判断されたことに対しても控訴を起こすという。「すぐにはなにも終わらないと思う」とエカテリーナは語っている。「ナージャとマーシャが出所するまではなにも終わらないことだから」。
プッシー・ライオットはもともと7名のメンバーから成っていてエカテリーナはほかのメンバーとの連絡も取っているが、ロシア政府の厳しい監視下に置かれている現在ではこれまでのような活動は不可能となっているという。「わたしとしてはアートをやりたいし、これまでやってきたことを続けたいと思う。でも、具体的にどういう形でやっていくのかということはまだ言えない」とエカテリーナは説明する。「ほかのメンバーもみんな(活動を)続けていく欲求があるのね。全員そうしたいと思っているから」。
また、再三再四ナージャとマーシャとの面会を求めてきたエカテリーナは12月に入ってナージャとのみ面会が許されたことを明らかにしている。ナージャとマーシャはソヴィエト時代に強制収容所として開発されたモスクワからそれぞれに500キロと1100キロ以上離れたモルドヴィアとペルミへ移送されていて、ナージャは偏頭痛に悩まされていることを訴えつつも保釈を諦めずに請求していくと語っていたという。
場合によっては自分たちには二度とパフォーマンスをすることができないかもしれないとエカテリーナは語っているが、その場合にはプッシー・ライオットの歩んできた道をほかの人間に積極的に教えていくという。
「わたしたちの裁判は政治裁判だったわけで、それはわたしたちの行為が政治的だったからなのね。わたしたちがやってきたのは政治的アートだからなの」とエカテリーナは語る。なぜそう言えるのかと言えば、それは「当局がわたしたちに対して反応したから。体制そのものが動いたからなのよ」とエカテリーナは語っている。
プーチン政権には無限の力が許されているように思えるが「その発想を変えなきゃならないの。闘争するためにはその逆の発想で考えなきゃならないし、そのために力を合わせることを考えなきゃならない」とエカテリーナと訴えていて、そのことを広く伝えていくつもりだという。