最後のファンタジー

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トロントの奇才、Final Fantasy改めOwen Palletの来年1月リリースのアルバム『Heartland』が素晴らしい。スペクトラムという架空の世界に住む、若く凶暴なキャラクターが付与されたルイスという農夫を主人公とするこの作品は、まさしく、自らゲーム・ソフトのタイトルを名乗っていた「表現手法」そのままに、現実にエンゲージするファンタジーを大胆に設定する。

Arcade Fireのドラマー、ジェレミー・ガラが参加し、ミックスにはPanda Bearの傑作『Person Pitch』やAnimal Collectiveの作品を手がけたラスティ・サントス、アレンジには、BjorkやAntony & The Johnsons、Grizzly Bearとの仕事で注目されるニコ・ミューリーを迎えて、チェコ・フィルハーモニックの協力も仰ぎながらレイキャビックで制作された本作は、音そのものの訴える「物語力」がスリリングに展開する、驚きの一作となっている。

ストリングス・アレンジャーとして、Arcade FireやGrizzly Bear、The Last Shadow Puppetsを手がけてきたOwen Palletが、しかし、ここで試みているのは、単に「ストリングスによるモダン・ミュージックの変奏」ではない。あるいは、コアとなるトラックに「装飾」されるアレンジのひとつとしてのストリングスという考え方とも異なる。そうではなくて、たとえば、モダン・ミュージックにおけるエレクトロニカの重要性と、ラジカルさにおいて同等に鳴り渡るチェロの響きはどういうものになるのか、といった視点である。もっといえば、モダン・ミュージックの臨界を超えるためのバイオリンとはどのように屹立するものなのかといったことだ。

なにゆえOwen Palletはそのようなトライアルを目指すのだろうか? それは、現実を描く現代のノイズに留まることなく、その現実をはるかに凌駕する時間性を持った「弦」の響きに、なにがしか現実を変容させうる「ファンタジー」はあるのではないか?という問いかけがあるからだ。つまりそれは、未来、ということである。

ファンタジーはいつも懐かしい。それは、ファンタジーがすでに語られた物語であるからだ。しかし、その懐かしさを到来させているものは、いつだって未来をも連れてくるのである。その力学に、Owen Palletは挑んでいる。
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