トロント映画祭で、マイケル・ムーアの新作『Fahrenheit 11/9』が世界初上映された。
この作品の冒頭では、なんともマイケル・ムーアらしい挑発的とも言える事実が発表される。彼曰く、「トランプはあまりに小さい奴で、心が狭いから、同じNBCで番組を持つ女性のグウェン・ステファ二ーが自分より高いギャラをもらっているのを知り、それが許せなかったんだ。だから大統領に立候補した。たったそれだけの理由だったんだ」と語ってるのだ。
しかし、これはムーア流の強烈なつかみのようなもので映画の大事なトピックではない。この作品が興味深いのはトランプがいかに悪人なのかを語る物語ではないということ。そうではなくて、今目の前に起きているフリントでの水道の問題などを扱っている。
政治家が金儲けのために行ったことが原因でフリントに住む子供達が一生後遺症を抱えることや、フロリダの高校で起きた銃乱射事件についてなど紹介しているのだ。高校生が撮影した心臓も凍るような残虐な映像が流れたりもする。
しかも、ひとつの事件に絞らず問題が次々に紹介されていく。それが今のカオスを象徴していると思うのだが、しかしその中でこれまでになかった形で戦いを始めた市民などの姿も紹介されるのだ。
マイケル・ムーア曰く、「これはトランプがどんな悪人なのか語る物語ではない」と。「そんなこと誰でも知っているから。そんなことに時間を費やすのは無駄だ」。この物語はむしろトランプを支持しない人達への警告なのだ。支持しないなら、今すぐに行動を起こさないとトランプが再選してしまう。何もしなかった人はその時に文句は言えない、ということが描かれてる。
「トランプを批判するよりも、もっと大事な物語を語らなくてはいけないという使命の下で作った。これは”希望”が何であったのかの物語であり、そしてその後に何が待っていたのかについての物語だ。欺くことについて、そして裏切ることについての物語なんだ。」
「どん底に辿り着いた人に何が起きるのか、トランプ時代を生きることにどんな意味があるのかについて。そして究極的には僕らがどこへ向かっているのかについての物語なんだ」
個人的に印象に残ったのはムーアが、「オバマ政権時代に掲げられた“希望”という言葉は、あまりに居心地が良すぎる」と語っていたことだ。この映画は「今は、希望ではなくて自分達で『行動を起こす時代』なんだ」と言っている。
その象徴がフロリダの高校生たちが銃乱射事件の際に起こした行動であり、この作品で改めて観ても、やはり最も感動的だった。ムーアは初上映に高校生たちとフリントの市民を招待していた。
上映が終わった後の舞台挨拶でもムーアは、「僕は“希望”には反対だ。希望はオバマがいる時だけのことで、それはそれで良かった。しかし僕らは『行動を起こす時代』に生きている」と語っていた。
「11月に行われる中間選挙で、共和党が勝ってしまったら、このまま2020年にまたトランプが勝つだろう。そうならないために、僕らは今1人1人の家のドアを叩き、投票するように呼びかけなければいけない。そうしなかったら文句を言う権利もないのだ」と。
マイケル・ムーアは、かつて『華氏911』という映画を作ったが、今回その逆の『119』にした理由は、トランプが大統領だと正式に発表されたのが11月9日だったからだ。選挙が行われたのは2016年11月8日だった。
アメリカの中間選挙は11月6日に行われる。映画の予告編はこちら。
https://youtu.be/JXCUPS2LETg