CD売上げがなんと17年振りに上昇。アデル、BTS、テイラー・スウィフトのおかげ。アナログ盤は50.4%も上昇。アメリカ人がフィジカルに戻ったのか? 懐古主義に?? TikTokは?2021年アメリカはどう音楽を買い聴いたのか。統計発表。

CD売上げがなんと17年振りに上昇。アデル、BTS、テイラー・スウィフトのおかげ。アナログ盤は50.4%も上昇。アメリカ人がフィジカルに戻ったのか? 懐古主義に?? TikTokは?2021年アメリカはどう音楽を買い聴いたのか。統計発表。

少し前に発表された統計なのでもう知ってる方もいるかもしれないけど、CDの売上がなんと2004年以来、17年ぶりに上昇した。アメリカの音楽売上の統計を出しているMRC Data(元ニールセン)が、2021年の音楽売上について最近発表して分かった。CDの売上が上昇したのは、主に、アデルBTSテイラー・スウィフトのおかげということ。
https://mrcdatareports.com/wp-content/uploads/2022/01/MRC_YEAREND_2021_US_FNL.pdf

また、統計によると、さらに驚異的なのは、アナログ盤の売上で、なんと2020年に比べて50.4%も上昇。アナログ盤の売上は、アメリカで2006年以来毎年上がり続けているので去年でなんと16年連続で上昇したことになる。それなのに、50.4%も上昇するなんて驚異的だ。

CD、アナログ盤の売上も上昇したため、カセットテープも含めたフィジカル全体の売上も、2020年から21.7%も増えて8280万枚となった。

以下いくつかのデータをまとめたもの。

1)音楽全体の消費量は上昇
まず良いニュース。
音楽全体の消費量は、2020年から11.3%上昇。

2)CD売上が2004年以来、17年ぶりに1.1%上昇
CDは毎年売上が下がり続けていたが、

2020年:4016万枚
2021年:4059万枚

と上昇。例え、1.1%とはいえ、16年も下がり続けていたのだからこれも驚異的だ。

これはアデル、テイラー・スウィフト、BTSなど超ビッグ・スター達のCD売上によるものだ。アデルの『30』はCD売上全体の2.15%を占めていた。またテイラー・スウィフトはベスト10内に3枚も、BTSは2枚も入っている。

去年のCD売上は以下の通り。
1. Adele “30” 898,000
2. Taylor Swift “Fearless (Taylor’s Version)” 263,000
3. Taylor Swift “Red (Taylor’s Version)” 237,000
4. Carrie Underwood, “My Savior” (217,000)
5. TOMORROW X TOGETHER, “The Chaos Chapter: Freeze” (215,000)
6. Taylor Swift, “Evermore”( 213,000)
7. NCT 127, “Sticker: The 3rd Album” (211,000)
8. BTS "Map of Soul 7” (210,000)
9. Olivia Rodrigo, “Sour” (195,000)
10. BTS, “Be” (187,000)

理由を推測するに、アデル、テイラー、BTSなどのもともと売上が多いアーティスト達が、それぞれCD限定のボーナストラック入りや、サイン入り、特別ボックスなどで、発売したのが大きかったからだと思う。アデルは、大手スーパーからクリス・ステイプルトンとのデュエットしたボーナス・トラックが入ったCDを発売。テイラーは、サイン入りCDを発売。私もテイラーがそこまで頑張るならとつい勢いで買ってしまった(笑)。

BTSは、『Map of the Soul: 7』が、2020年アメリカで最も売れたフィジカル・アルバムとなり、『Be』も5位だった。2021年は、新作の発売がなかったにも関わらず、そのまま売れ続け、2021年の前半は、BTSが、CDの売上で全米1位を記録。つまり2年またがって売れ続け、2021年のリストにもそのまま2枚入ってしまった。コロナ禍で大きな活動はできない中で、まだまだ人気が拡大しているのだと思う。CDは、歌詞やポスターなどがついた特別パッケージだった。

さらに、フォーブス誌が指摘していたが、BTSに限らず、TOMORROW X TOGETHER、NCT127とKポップ・アーティストが、CDの売上ベスト10に計4つも入っている。消えゆくフィジカル売上をKポップファンが救っている。
https://www.forbes.com/sites/hughmcintyre/2022/01/09/bts-nct-127-and-tomorrow-x-together-k-pop-helped-cds-rebound-in-america-in-2021/?sh=61e127d951ff

3)アナログ盤の売上は驚異的、前年比で50.4%も上昇。
CD売上げがなんと17年振りに上昇。アデル、BTS、テイラー・スウィフトのおかげ。アナログ盤は50.4%も上昇。アメリカ人がフィジカルに戻ったのか? 懐古主義に?? TikTokは?2021年アメリカはどう音楽を買い聴いたのか。統計発表。

アナログ盤の売上は、2006年以来上昇し続けているが、2020年の売上が2755万枚で、2021年は4170万枚と50.4%も上昇。これは、CDやデジタルでのアルバム売上を上回る数字だ。ただし、ストリーミングも合わせたアルバム全体の売上の中では、わずか4.7%にとどまる。それにしても、上がり続けているばかりか飛躍的に伸びたのは特筆すべきだろう。

2021年アナログ売上トップ10
1. Adele, “30” (318,000)
2. Olivia Rodrigo “Sour” (268,000)
3. Taylor Swift “Red (Taylor’s Version)” (260,000)
4. Harry Styles, “Fine Line” (256,000)
5. Billie Eilish, “Happier Than Ever” (252,000)
6. Taylor Swift, “Evermore” (249,000)
7. Prince & the Revolution “Purple Rain” (207,000)
8. The Beatles, “Abbey Road” (201,000)
9. Taylor Swift, “Folklore” (195,000)
10. Kendrick Lamar, “Good Kid, M.A.A.D City” (194,000)

a. アデル:
アデルは、初週にアナログ盤を50万枚出荷するために、それじゃなくてもコロナで100%稼働できず、もともと数が足りていなかったアナログ盤製造工場を独り占め。おかげでインディ・レーベルなどのアナログ盤出荷が遅れたことがニュースになっていたくらいだ。

アナログ盤の売上上昇は、例えば自分もカラー・バイナルがかわいいとすぐ買っちゃったり、かと思えば、良い音で聴きたいアーティストは180gram版を買ってしまったりする。ビリー・アイリッシュのグッチとのコラボ版はじめ、テイラー・スウィフトも次々に色んな色なアナログ盤を発売。

もちろんあらゆる方法でアルバムを売りたいというのはあるにはしても、アデルやテイラー、ビリーなどがアナログ盤にこだわり、ここまで実際に売れたのは、彼女達自身が、作品をアルバムとして聴いてもらいたいとより強く思っているアーティストであることと、絶対に関係していると思う。

b. レコード・ストア・デイ:
またアナログ盤の売上でもうひとつ特筆すべきは、レコード・ストア・デイの成功だ。CNNもレコード・ストア・デイの成功がコロナ禍で困っている小売店を助けたと記事にしていた。
https://www.cnn.com/2021/07/17/us/record-store-day-second-2021-trnd/index.html

去年は回数を増やしたこともあるが、MRSのデータによると企画を始めた当初の2011年はレコード・ストア・デイの週のアナログ盤の売上は、16万5千枚だった。以降着実に増え続け、2021年は、初回の週でなんと128万2千枚。2週目も114万枚も売れた。コロナ禍で店に行けない人のために、発売の翌日に残っていたものがあれば、各店ネットで発売したのも良かった。私もおかげで、ビリー・アイリッシュの”No Time To Die”のライブとデモ音源が入っている7インチが買えた。

4)しかし、ストリーミングも上昇で新記録更新
全体としてはストリーミングが圧勝で、9881億回。去年より12.6%上昇で、史上最高記録を更新した。

5)フィジカル、デジタル、ストリーミングを全てを合わせた総合のアルバムトップ10
1. Morgan Wallen “Dangerous: The Double Album” (322.6万枚)
2. Olivia Rodrigo, “Sour” (285.6万枚)
3. Drake, “Certified Lover Boy” (197万枚)
4. Adele, “30” (193.6万枚)
5. Pop Smoke, “Shoot for the Stars Aim for the Moon” (153.3万枚)
6. Doja Cat, “Planet Her” (151万枚)
7. The Kid LAROI, “F*ck Love” (150.5万枚)
8. Justin Bieber, “Justice” (147.3万枚)
9. Dua Lipa, “Future Nostalgia” (140.3万枚)
10. The Weeknd, “After Hours” (134.2万枚)

6)総合の曲トップ10
1. Dua Lipa “Levitating” (→2020年の曲)
2. Olivia Rodrigo “drivers license”
3. Olivia Rodrigo “good 4 u”
4. The Weeknd & Ariana Grande “Save Your Tears”
5. The Kid Laroi & Justin Bieber “Stay”
6. Masked Wolf “Astronaut In The Ocean”
7. Doja Cat feat SZA “Kiss Me More”
8. Lil Nas X “Montero”
9. Glass Animals “Heat Waves”
10 The Weeknd “Blinding Lights” (→2020年の曲)

7)その他面白いデータ

a. データの収集開始(1991年)以来初。新作より過去の作品を聴く割合が多くなった。
これは、大物がアーティストが今著作権を売っている理由のところでも書いたけど、
https://rockinon.com/blog/nakamura/201049

発売から18ヶ月以上経っている曲を聴く率が、なんと24.8%も上昇し、全体で74%になった。史上初めて、カタログを聴く率が増えた。このデータによると、それはコロナ禍となってすぐにストリーミングなどで見られた現象だったよう。それが2021年も続いたということ。

理由として考えられるのは、単なる懐古主義と言うだけではなくて、例えば、フリートウッド・マックがTikTokで使われていきなり大人気になってしまったように、TikTokで使われて新世代が知らなかった過去の曲を知ると言うのも大きな理由だと言うこと。またここでも重要なのが、テイラー・スウィフトで、『レッド』や、『フィアレス』など過去の作品を「(テイラーズ・ヴァージョン)」として発売したのも大きく影響している。

また、個人的には、Dua Lipaや、The Weekndなど2020年のコロナが始まった頃に発売された曲が売れ続けたのもポイントだと思う。自分のことを考えても、コロナでロックダウンが始まった当初、新曲を開拓したい気分でもなかったので、その直前に聴いた一番新しい曲をつい聴き続けてしまった。時間の感覚が曖昧になって今が2020年だったか2021年だったか、カレンダーを何度も見てしまうこともあった。ずっと家にいるから体感として、進んでいるのか止まっているのかよく分からなかった時代とも関係しているんじゃないかと思う。

b. パンデミック中、人はいつから音楽を聴くようになったのか?
上に書いたこととも関係しているが、パンデミック中にどんなエンターテイメントに最も時間を割いたかという表もあって興味深い。
2020年3月の最終週、つまりロックダウン直後は、ニュースに71%費やしたと言う統計。そこから、物づくり→料理→短い映像を見る→ソーシャルメディアと移行して、音楽を聴くが1位になったのは、2020年9月半ばからだ。そこから現在まで音楽が1位のことが多い。

c. TikTokで売れた曲が175曲もヒットチャートに返り咲き。
過去の曲がより聴かれるようになったひとつの要因。フリートウッド・マックのように、TikTokで過去の曲が使われてそれがそのままチャートに入るケースが2021年に前年より2倍も増えた。TikTokで人気となった過去の曲の中から、なんと175曲もビルボードのシングル・チャート100位以内に返り咲いた。

d. 最も売れたロック・アルバム(フィジカル、デジタル、ストリーミング総合)
1. Queen, “Greatest Hits” (971,000)
2. Fleetwood Mar, “Rumores” (910,000)
3. Machine Gun Kelly, “Ticket to My Downfall” (856,000)
4. Elton John, “Diamonds” (742,000)
5. Creedence Clearwater Revival, “Chronicle The 20 Greatest Hits” (699,000)

e.最も売れたロック・ソング
1. Glass Animals “Heat Waves” (4,109,000)
2. Machine Gun Kelly x Blackbear “My Ex’s Best Friend” (2,224,000)
3. Maneskin “Beggin” (2,180,000)
4. Fleetwood Mac, “Dreams” (2,150,000)
5. The Neighbourhood, “Sweater Weather” (1,896,000)

f.総合的な雑感
ーコロナ禍でも人は音楽を聴き続けた。
ーフィジカルがこれまでになく売れた。
ーアデル、ドレイク、オリヴィア・ロドリゴなどメインストリームで莫大なセールスを記録するアーティストが何人もいた。
ーテイラー・スウィフトがあらゆる意味で成功した。
ーBTSをはじめ、ここ数年の傾向に続き、より多様なアーティストがアメリカの音楽産業に新風をもたらし支えた。
ー過去の曲がより聴かれるようになったが、単なる懐古主義なのではなくて、TikTokなど新たな方法で昔の音楽を発掘する若者が増えた。



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