アメリカのフェスは、4月に開催されるコーチェラから開幕するが、NYで夏フェスが本格的に開始するのは、毎年6月に開催のガバナーズ・ボール・ミュージック・フェスティバルからだ。
コーチェラが今年3年ぶりにいつも通りの4月に開催されたのと同様に、ガナバーズも去年は9月開催だったのが、11年目を迎える今年はようやく通常の6月に戻って行われた。
この週末6月10〜12日にメッツ球場であるCiti Fieldの駐車場で無事開催。
Twitchで中継されたが、その映像がこの週末にもまたリピート配信されるよう。
https://www.twitch.tv/govballnyc/schedule
初日のヘッドラインはキッド・カディ、2日目は、ホールジー、最終日はJ.コールだった。
実は、もちろん3日とも行く予定だったのだけど、なんと映画『エルヴィス』の取材をメンフィスのグレイスランドですることになり、初日しかフェスには行けなかった。しかし、『エルヴィス』の取材をグレイスランドでする以上に幸運なこともない。バズ・ラーマン監督の作品なので、さすがサントラも超豪華だ! 明日エミネムの曲が公開されるようなので、それと一緒に『エルヴィス』のレポートもする予定!
それでまず夏フェスへのカムバックだが、着いた瞬間に、あまりにチープな表現だが、ここはパラダイスかと思ってしまった(笑)。
と言うのも、アメリカでは現在、毎日テレビをつけると、気分が落ち込むようなニュースばかりだ。コロナだけが問題なのかと思っていたけど、それ以上に最悪な問題が続いている。
もちろんテキサス州で起きた銃乱射、ロシア・ウクライナ戦争はじめ、現在は去年1月6日に起きた米議会襲撃事件の公聴会を放送しているし、それ以前に中絶の権利に関する最高裁の決定の行方、ガソリン代や物価高騰、この24年ぶりの円安、すでに各地で危険なほどの暑さ、イエローストーン国立公園では記録的な洪水など、本当に地球が終わりに向かっているとしか思えないことだらけだ。
そんな日常の中で、フェス会場に到着すれば、そんな現実からはいったん切り離され、しかも、気の合う友達と、または一人で来ている人もいたけど、でも、思い思いのファッションで、野外で、アイスクリーム食べたりして、基本大好きな音楽を思い切り聴いていればいいのだ。そんな空間を与えてもらえるなんて、こんな最高の場所もない!と改めて思った。いつもそう思っていたはずだけど、去年より強く思ったのは、世の中がよりいっそう暗いからなのかもしれない。
また、去年フェスに復帰した際は、まだコロナ感染に関する恐怖心が強かったと思う。今年もまだコロナ禍ではあるものの、そういう状況でライブを観るにも慣れたし、少なくとも野外だから屋内の小さい会場よりは気が楽だ。
ただ、去年はまだ入場の際に陰性証明かワクチン接種証明の提示が必須だったものの、今はもう何も見せないで入れる。中でも当然マスクは義務じゃないし、ソーシャルディスタンスもなしだし、声も出して良いし、キャパも100%。つまり、完全に通常に戻っているのだ。なので、そう言う状況に不安な人は来ないか、自分なりの方法で自分の身を守るということだと思う。
それでまず観れてないアーティストも含めて、日本のフェスに来るアーティストから一気に紹介。
●ホールジー(フジロック出演)
なんと、『ストレンジャー・シングス』のおかげで現在アメリカではキャリア初のシングルチャートベスト5入りを果たし、なんと4位にまで上昇したケイト・ブッシュの”Running Up That Hill”もカバーしている。映像はこのポストの中で見られる。
彼女は8年前に初めてのレコード契約を結び、その日にガナバーズ・ボールを観に来たそうだ。それから8年後には見事ヘッドライン。
ホールジーのセットリストは以下。NINのトレント・レズナーとアッティカス・ロスがプロデュースした最新作からも多くパフォーマンスされている。
Nightmare
Castle
Easier than Lying
You Should Be Sad
1121 / Die for Me
Graveyard
Hurricane
The Lighthouse
Honey
3am
So Good
Bad at Love
Gasoline
Running Up That Hill
Without Me
I am Not a Woman, I’m a God
●ジャパニーズ・ブレックファスト(フジロック)
ライブを幕開けする”Paprika”は、彼女にインタビューした際言っていたけど、今敏監督の映画『パプリカ』に影響を受けた曲。とりわけ映画の中のパレードシーンに影響を受けたので、このような華やかなサウンドになっている。
2曲目の”Be Sweet”は彼女のアルバムの中でも最もポップな曲。
これもインタビューした時に面白ことを言っていて、ワイルド・ナッシングのジャック・テイタムと共作。そのきっかけはレーベルにワイルド・ナッシングが彼女の曲が好きで、共作したいと言っていると言われたからだったのだが、いざ彼に会うと、彼にもレーベルが同じことを言っていたことが判明。彼女がワイルド・ナッシングの大ファンだと。「レーベルってそう言うこと時々するのよね」と言っていたが、実際共作してみたらジャックの曲の書き方が素早くて感動。
しかもすごく良い曲ができたから、本当はこの曲をポップスターに渡すつもりで作ったけど、自分がアルバムを作ったら絶対に使えるからと自分用に取っておいたと言っていた。
セットリスト
Paprika
Be Sweet
In Heaven
The Woman That Loves You
Kokomo, IN
Road Head
Heft
Savage Good Boy
Boyish
The Body Is a Blade
Glider
Posing in Bondage
Slide Tackle
Everybody Wants to Love You
Diving Woman
●ビーバドゥービー (サマーソニック)
セットリスト
Care
He Gets Me So High
Coffee
Sorry
She Plays Bass
See You Soon
Dye It Red
Talk
Charlie Brown
Back to Mars
Last Day on Earth
Cologne
前回観た時は、屋内だったし、彼女の単独ライブだったので、パンデミック以来初めて彼女のライブを観られて感動するファンがぴょんぴょん跳ねまくる幸せな光景が広がっていたけど、今回はメインステージで3時というヘタしたら最も辛い枠での出演。しかし、だからこそ、彼女の才能とタフさが再確認できた。
そもそも彼女のライブの音が鳴ったら、ステージに向かって走り出すキッズがたくさん。フェスではそれはいつも最高のサインだ。暑くても聴いている観客の集中力が欠けたりせずに、狂ったように踊っているファンもいて微笑ましかったし、曲によっては手を右左に降ったり、跳ねまくったり、合唱したり。曲の良さ、バンドのパフォーマンスの良さ、それがむしろ際立つ内容だった。
それでいて、無理にサウンドを押し付けてこない、どこか優しくふんわりとしてマイペースなところがあるのも最高に魅力的だ。今のUKの若手バンドはみんなライブパフォーマンスの能力が非常に高いんだけど、彼女もその1人。サマソニもお楽しみに!
●ブラック・ピューマズ(フジロック)
彼らこそ、鉄壁のパフォーマンスに、フックのあるメロディ、心地良いサウンドでどんなフェスに出ても観客をエンターテインできるタイプのバンドだ。
しかしそこで怠けていなくて、いきなりステージから降りてきたして、どのバンドよりも、サービス精神もあり、あらゆる手段で観客とこの場をスペシャルなものにしようというパフォーマンスだったのが良かった。グラミー賞常連の実力をぜひ目撃してください。
セットリスト
Next to You
I’m Ready
Know You Better
Black Moon Rising
Touch the Sky
Suger Man
Confines
Fire
OCT 33
Colors
その他。
●ジャック・ハーロウ
フェスにおいては、たいていメインステージのトリよりも、セカンドステージのトリの方に今最も熱狂的なファンが集まったりするものだけど、この日最も熱狂的なファンが集まったのは、ジャック・ハーロウだった。
ステージ前のフォトピットも超緊迫感ありでカオス寸前。セキュリティやステージマネージャーがピリピリしてるのが伝わってきた。実際カメラマンは、危ないので、全員ステージ脇に押しやられた。
映像が少し観られる。
何がびっくりしたって、彼のファンに女子が多くて、しかも黒人も白人も、人種に関係なく人気。彼女たちのキャーキャーと言う歓声に、彼が女子からアイドルのような熱狂的な人気があるのだと初めて知った。もちろん男子のファンもたくさんで、一番前には歌詞を覚えているからステージに上げてくれと書いてるファンもいた。
●スケプタ
熱狂という意味では、ジャック・ハーロウよりさらに熱狂的なハードコアファンが大量にいたのがスケプタ。その熱が少し危険な感じですらあったが、それは彼の音楽性にも通じるものだった。
映像が少し観られる。
●キッド・カディ
サウンド的にもセットも、文学性が高く、オタクぽくもあり、それを新しいエンターテイメントにして、初日のメインステージを見事に飾っていた。
上は本人がリツイしていた映像のひとつ。
そういえば、彼と様々なプロジェクトでコラボしているティモシー・シャラメもステージの横で観ていた❤️
●雑感
今年のガナバーズの素晴らしかったところは、ヘッドライナーも、黒人2人で、女性1人。
私が観た初日も、観れなかった日も、ギターを抱えた女性アーティストがたくさん出たし、黒人アーティスト、ゲイのアーティストがこれまで以上にブッキングされていた。
―― クレイロ
―― サッカー・マミー
―― 100 gecs
―― SAMIA
―― ALY AND AJ
―― Blu Detiger
―― ジャズミン・サリヴァン
そのせいもあり、かつてフェスと言えば、白人が大半だったのだが、黒人も、ゲイも、女性も、これまでになく様々な人たちが集まっているのが特徴で素晴らしかった。そのようにブッキングすれば、様々な人たちが集まる証拠だと思った。
またやはりフェスは若いファンが圧倒的に多いのだけど、それが今の新世代のリアルな姿で、少なくともニューヨーク周辺では、それがそのまま反映されていたのだとも思う。フェスの観客の風景が変わってきている。
そう言えば、私はまた会場でただ1人というくらいの勢いで始めはマスクしていたんだけど、26度超えて、風がそよそよ吹いている気持ち良い会場でも、陽が照っているお昼から3、4時くらいまでは、マスクしていると息が苦しくて、コロナにならなかったとしても倒れてしまいそうだったので、人混みには行かないようにしながらマスクは外していた。
みなさんも、各自体に気を付けながら、今年の夏フェスを満喫できますように!
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