ストライプス映画をジャック&監督が語る
2010.03.26 07:15
祝『アンダー・グレイト・ノーザン・ライツ』発売!何度も言っていますが、必見です。このドキュメンタリーを観ると、ホワイト・ストライプスの素晴らしさを再確認するのは当然のことながら、これを映画として成立させた監督エメット・マロイの才能にも感嘆するばかりです。元々は、サーフィン映画から撮り始め、ジャック・ジョンソンとBrushfire Recordsを共同設立した人。そこからミュージック・ビデオを撮り始め、ホワイト・ストライプスのビデオも撮っている。このドキュメンタリーは正にサーフィンと音楽の結合のように、動き続ける波を直感で追い続けたからこその作品のような気がします。これから発売のロッキング・オン最新号のコレポンで、ジャック・ホワイトのこの映画に関するトロント映画祭での発言は掲載していますが(ぜひぜひ読んでください!)、ここに掲載しきれなかった監督の話を。かなり長いですが、映画を観た後、今週末の読みものとしてぜひ!!!ちなみに、以下のコメントは、配られた資料の中からも抜粋しています。
まず、ジャックのコメントの中で、掲載しきれなかったもののひとつ。観る人に何を期待しているか?という質問に対して。「僕らはツアー中によく他のバンドのツアー・ドキュメントを観たりするんだけど、この作品を編集している間にいつも言っていたのは、この映画はバンドがツアーに出る前に絶対に買いたくなる映画だ!絶対観たくなる映画だ!ということ。僕は常に、ミュージシャンに向かって、またはソング・ライターに向かって曲を演奏しているつもりなんだけど、例えば、曲を書いている時は、この曲を聴いたらホーギー・カーマイケルは一体どう思うだろうって思うし、演奏している時も同じで、そうすることで、自分がより上を目指すんだ。だからエメット(・マロイ:監督)も同じことをしていたと思う。これはミュージシャンに向けて作られているのと同時に、音楽ドキュメンタリーの映画作家達にも向けても作られていると思う。過去にどんな作品があり、そして、それを僕らが、未来に向けてどこまで押し進められるのか、ということを示すための作品でもあるんだ」
以下監督のコメント。
●この映画を作りたいと思ったきっかけは?
「ナッシュッビルで、”イッキー・サンプ”のミュージック・ビデオを撮影していたんだ。その2日間で、ジャックと色々と話す時間もあって、レコードを聴かせてもらっただけじゃなくて、最近何をしているのかを聞いたりしたんだ。それで、ジャック・ホワイトに、”最近どうしてる?”とすごくシンプルな質問を投げかけると、その答えはいつも非常に長いものになる(笑)。彼は常に同時にすごくたくさんのことを手がけていて、しかもそのひとつひとつが全て面白そうなものばかりだからね。その時点で『イッキー・サンプ』はまだ発売されていなかったのに、ビデオを撮影しながら、すでに、ラカンターズの新譜を制作していた。それで、ストライプスの新譜に関する計画も話してくれて、その中で最も面白そうだったのが、カナダの全州をツアーするという話だったんだ。彼自身すごく興奮してたし、彼がどんな所を訪れるのか聞いて信じられなかったんだ。それを聞いた後、思ったことはひとつ。これは絶対に誰かがドキュメントにするべきだ、ということだった。それでジャックは同意してくれて、僕らは出かけて行った。僕と友達ふたりの3人で、バンドと一緒にツアーに出て、カメラ3台で、とにかく撮影できるものはすべて、無我夢中で撮影しまくったんだ」
●この映画を作るにあたってあなたのインスピレーションとなった作品はありましたか?または、音楽ドキュメンタリーで好きな作品は?
「僕はウィルコの”I Am Trying to Break Your Heart"が大好きだし、何かが起きる作品が好きなんだ。それが必ずしも良いことではなくてもね。そういう瞬間こそがバンドの歴史を特別なものにすると思うから。それから、『ラスト・ワルツ』はこれまで観た映画の中で恐らく一番好きだし、マーティン・スコセッシという人は、つまりそういう瞬間をどうやって捕らえればいいのかがいつだって分かってる人なんだ。僕らの撮影は、僕らが期待していた通り、州から州に移動する度に良くなっていった。僕はいつだってなんとかジャックに付いて行くだけで精一杯だったけどね。だから、どういう映画のどういうところを真似してみたいと考えてる余裕はなくて、ジャックとメグが、なるべく居心地悪く感じないようにするにはどうするべきかを懸命に考えていた。もちろん、ボブ・ディランの『ドント・ルック・バック』は、これまで数えきれないくらい観たし、いつもああいう瞬間を自分も撮影してみたいという夢があったんだ。それから、テレンス・マリックのような映画にもしたいと思った。映画のどこかに空間と幻想が広がるような。もちろんライブ自体を収めることが最も重要だったけど、それぞれの町とそこに住む人々というのも同じくらい大事だった。そのすべてを完璧に収録することは無理だったけど、でも、アクシデントはエネルギーなんだ。失敗こそが、最高の瞬間になったりするからね」
●彼らのバックステージにカメラを持って入っていくのは簡単でしたか?
「それは簡単じゃないと思っていたんだ。特に僕がバンドのファンでもあったからね。でも、やはり撮影が始まったらしっかりと映画監督になっていた。彼らはバックステージには入れてくれたけど、でも、時に僕の目の前でドアが閉まることもあったんだ(笑)。だけど、そのドアを蹴飛ばして中に入って行った。どこまで入っていいのか、ということはきっちりと見極めながらね。そして、ツアーが進むうちに、入れてもらい安くなったんだ。だけど、常にバランスが大事だった。彼ららしくなければ、その瞬間がリアルにはならないからね。それを間違えたら、まったく違う作品になっていたと思う。これだけ親密な内容のものはできなかったと思う。最終的にはカメラにすごく慣れていって、いつの間にかカメラの前でも眠るようになった。それはすごくいいサインだった」
●映画の中で一番好きなシーンは?
「Baffin Bayで撮影したシーンで、ジャックとメグが凍った海岸沿いを歩いて、古い町の墓場へ抜けていくところ。あれは、まるで月面に舞い降りたように美しかった。Iqaluitという町へ訪れたことは、僕の人生でも最もシュールリアルな体験だったと思う。1年のあの時期、あの町には夜が訪れることはなくて、だから、ほとんどの建物には窓がないんだ。それで朝早く起きて、ジャックとメグと一緒にどこで撮影するのかを捜そうと車に乗ってドライブしてたんだ。そしたら、海の前の古い家をすぐに見付けた。それは白い家で、ふたつの赤いドアが付いていて、そして、その前に、赤い大きなボートが停泊していたんだ。それは完璧すぎて、まるで、そのすべてがこのバンドのために作られたようだった。このツアーで嬉しかったことは、このバンドの赤と白が、カナダの国の色だったということ。それはもちろん、ホワイト・ストライプスの撮影するには完璧な場所だったんだ」
●これまでにはミュージック・ビデオとサーフィン映画を撮影していますが、その経験がこの作品ではどう活かされたと思いますか?
「まずホワイト・ストライプスのビデオを撮ったからこそこの作品が撮れたわけだから、それは大きいよね。僕にとっては、ストライプスは常に一番興味深いバンドだったんだ。僕は彼らの作品は全部好きだし、彼らからもすごくインスピレーションを得るんだ。だから、僕がミュージック・ビデオを撮ったことと、音楽が好きであるということが、こんな素晴らしいバンドの、素晴らしく興味深い旅をドキュメントできた大きな理由だったと思う。それからサーフィン映画を撮ってきた経験ももちろんこの映画にはすごく助けになった。というのも、サーフィン映画というのは、基本的に、サーフィンをしている間は、すごくシンプルで、美しい物語を語るということで、さらに波を待っている間は、そこで経験した様々なカルチャーについて描くということだったから。この映画でやったことも基本的にはそれと同じだったんだ。僕はここで音楽体験についてをドキュメントしたわけだけど、ここにはそれ以上のものが描かれているということが分かっていたんだ。ここには、すごく興味深い人間関係が描かれているのと同時に、ほとんどの人が見たこともない素晴らしい世界が紹介できたと思うんだ」
●撮影している時の裏話は?
「全州で彼らがやったシークレット・ライブが本当に重要で、そのおかげでこの旅はより特別なものになったと思う。彼らはそのシークレット・ショーすべてで、彼らが10年前に初めてやったストライプスのライブで使ったものとまったく同じ楽器を使って演奏したんだ。とりわけ、町に到着してから、ふたりでどこで演奏するのかを決めている過程こそが僕にとってはいつも最高にクールに思えた時だった」
●モノクロで撮影した理由は?
「モノクロには常にタイムレスなところがあって、それが良いと思ったんだ。だけど、カナダには、この映画のためにデザインされたかのように、赤と白が至る所にあった。だから、カラーで撮るのを拒否するのは無理だった。それに、そうすることで、町ごとに違う印象を与える効果もあると思ったからそれも良かった。それが、リズムとムーブメントも生み出すと思ったしね」
●たまに、映像がボケる時がありますが。
「それは僕らが酔っばらっていたんだと思う(笑)」
おわり。