カレン・エルソン@Le Paisson Rouge


ご存知ジャック・ホワイト婦人のカレン・エルソンが、3月22日にNYでライブを行なったことは、すでにニュース欄でもレポート済みです。すいません。時間かかりすぎて。キャパ300人のクラブ(「全席指定」ではなかったですが)のチケットは即完売。ナッシュビル、SxSWですでに披露されたライブに続き、NY公演が行なわれた。


開場より少し早く着いてしまい列に並んでいると、待っている人達はなぜか見覚えが……。そうだ、この間サードマン・レコーズのポップアップ・ストアがNYでオープンした時もいた人達だ。つまり熱狂的なジャック・ホワイト信者達が早くから並んでいたのだ。しかし会場に入ると、かのグレイス・コディントンも!(『ファッションが教えてくれること』観た人ならわかりますよね)ヴォーグ軍団もがっつり来ていたのだ。彼女はジャック婦人以前にスーパー・モデルである。二児の母なのに、いまだランウェイにもたまに出ているし、広告でも活躍。その美貌もさることながら赤毛とそのエキセントリックさで長続きしているタイプなので、モデルに収まりきれない個性で、ソロ・デビューに漕ぎ着けたのだろう。


なので始まってみると、よくあるモデル/女優をミュージシャンがプロデュースしたと言う、なよなよしいものではまったくなかったのが、まず驚きだった。ロングのカントリー調ドレスで登場、その美しさもさることながら、ギターで参加したメグのダンナ、ジャクソン・スミスと笑顔で会話を交わしながら、その場の空気を気持ち良さそうに堂々と仕切っていたのだ。正にこの日を待っていた、と言わんばかりに。


アルバムには、ジャックがドラムで参加、ベースは、ジャック・ローレンス、ギターには、ディーン・ファーティタなどが参加しているということだが、もちろんデッド・ウェザーのツアー中なので、ここには来ず。代わりのメンツに加え、アルバムにも参加のRachelle Garniez(The Citizens Band音楽ディレクターのひとり/サードマンからもレコードを出す)など、ファミリー・アフェアなバック・バンド5人にがっちり支えられ、自慢の美しく安定した声を伸びやかに響き渡らせていた。


彼女は、そもそもミュージシャンとしても、NYベースのアート集団/友達で作ったキャバレー・スタイルのバンド、The Citizens Bandに所属していたし、セルジュ・ゲンズブールのカバー・アルバムで、キャット・パワーとデュエットしたり、ロバート・プラントの曲でヴォーカルをしたり、恐らくいつかこれがやりたかったはずなのだ。サウンド的には、The Citizens Bandよりは、さすがにジャック・ホワイト色の強いブルーグラスやカントリー、ブルースではあったが。例えば、1曲目の"Pretty Babies"の出だしのドラムは、正にジャックのものだったし、また、”Stolen Roses" などは弱冠”Little Ghost" を彷彿とさせるようなトラディショナル・フォーク・バラード的サウンドではあったが、徐々に、ジャックの影響を捜すのも面倒になるような、彼女の表現になっていった。途中、The Citizens Bandのために書いた曲と言っていた”100 Years from Now" などキャバレー調の曲も入りつつ、弾き語り的な味わいをメインにしたより幅広く、風通しのいいブルース/カントリーとして、ライブでは演奏していた。


曲がどのようにして出来たのかをひとつずつ丁寧に説明しながら、例えば、毎年夏になるとナッシュビルを襲う雷雨について歌った曲とカントリー調の”Cruel Summer"を披露したり、悪いことが起きるとそれを嗅ぎ付けた鳥が空に円を描くことについての曲という”The Bird They Circle" など。さらに、その名も”真実は闇の中”という不気味なタイトルのブルース曲、”The Truth is in the Dark" を歌うなど。彼女のゴス心か、ジャックの影響か、全体的に、何かに取り憑かれたような、ダークな影が支配していたのが印象的でもあった。途中「靴がキツくて死にそう」と嘆いたので、会場から「脱げばいい!」と声援が飛ぶも、最後まで脱がなかったのは、正にモデル魂か。


アルバム”The Ghost Who Walks"は、アメリカでは5月25日発売。
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