ティモシー・シャラメが、ディランの”はげしい雨が降る”を歌うディラン伝記映画予告編公開。監督がディランと初めて交わした会話などについて語る。

ティモシー・シャラメが、ディランの”はげしい雨が降る”を歌うディラン伝記映画予告編公開。監督がディランと初めて交わした会話などについて語る。

待ちに待ったティモシー・シャラメが、ボブ・ディランを演じる『A Complete Unknown』の初ティーザーが公開された。こちら。

このティーザーの見所はなんと言っても、ティモシーが自ら歌うボブ・ディランを観れること。

ディランを演じるのは、相当ハードルが高いことだと思うのだけど、このティーザーを見る限りは、ディランを演じるティモシーの歌唱力、演技力が想像以上だ。曲が聴き終わる頃までには、胸に刺さるものがあるように思う。つまり、この曲の人を引き込む力が再現されているのが素晴らしいと思うのだ。ディランの存在が感情的に人にどういう影響を与えたのかが捉えられている気がするから。

個人的にティモシーのファンでもあるため、少し贔屓目かもしれない? 皆さんいかがですか? ディランの長年のファンから、全然ダメと思われたらかなり厳しいけど。

伝記映画で難しいのは、最終的には見た目が似ているとか、歌い方が似ている、だけだと単なる物真似になってしまうこと。内面的な部分で観た人が信じられるものになっていないと映画として薄くなってしまう。それはティモシーの演技力だけではなくて、脚本や、映画そのものが良いかどうかにかかってくるので簡単ではない。このティーザーだけでは判断できないけど、現時点ではかなり期待大だ。ちなみに、今回、ティモシーもその他の出演者も全員撮影時は生でパフォーマンスしている。

映画については、以前少しご紹介したが。
https://rockinon.com/blog/nakamura/205945

現時点で分かっていることを、以下改めてまとめ。

またローリング・ストーン誌が、監督のジェームズ・マンゴールドに映画に関する初のインタビューも行っている。

1)監督
ジェームズ・マンゴールド
音楽ものの伝記では『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』も監督。
ホアキン・フェニックスがジョニー・キャッシュ、リース・ウィザースプーンがジューン・カーターを演じ、2人も劇中では自ら歌っていた。リースがアカデミー賞受賞。
その他『LOGAN/ローガン』など。

2)主なキャスト
ジョーン・バエズ:モニカ・バルバロ
シルヴィ・ルッソ:エル・ファニング(『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』のジャケットにも登場する当時のガールフレンド、スーズ・ロトロの名前を単純に変えた。その他の登場人物と違い一般人なので、恐らくディランが彼女との思い出を守るため)
ピート・シガー:エドワード・ノートン
ジョニー・キャッシュ:ボイド・ホルブルック
ウディ・ガスリー:スクート・マクネイリー

3)ボブ・ディランもプロデューサーの1人
音楽伝記ものにおいて重要なのは、本人か遺族が公認かどうかだ。
それによって楽曲が使えるかどうか決まるので。
今作はディランもプロデューサーの1人で、全楽曲の使用が許可されている。

また、監督がポッドキャストで語ったところによると、ディランと2人で何日か過ごす素晴らしい機会があり、脚本に個人的にメモを書いてくれたということ。

ディランは監督に、彼の作品『コップランド』が大好きだと言ってくれたそうだ。

4)物語
原作は『Dylan Goes Electric!』。著者はイライジャ・ウォルド。
ティモシー・シャラメが、ディランの”はげしい雨が降る”を歌うディラン伝記映画予告編公開。監督がディランと初めて交わした会話などについて語る。

1961年、ディランが19歳でNYに到着したところから、その後大成功し、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルで、初めてエレキギターで演奏。大論争となったそのライブが終わってから72時間後までが描かれている。
https://youtu.be/S1TKUk9nXjk?si=FFTHptY-uv7O6XKj

脚本は、監督とジェイ・コックス。マーティン・スコセッシの『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』、『沈黙 -サイレンス-』も手掛けている。

5)公開は、アメリカでは今年12月。
完全にオスカー狙いだ。
撮影は7月までやっていたので、かなり速攻で編集を終わらせることになる。

6)監督が、最新インタビューで語っていたことを以下要約。
ディランと映画について初めて交わした会話なども紹介されている。


●ディランと初めて会ったこと。

「彼と初めて会った時に、『映画は、何ついてなんだ?』と訊かれた。
『ミネソタでの生活に息が詰まって死にそうになっている若者が、友達も家族も全て捨てて街を出て、真新しい場所で、新しい友達を作り、家族を作り、自分を再発明して、現象となるような成功を収めること。しかし、そこで再び息が詰まって死にそうになり、逃げ出すことについて』と言ったんだ。そしたら、ディランはその全てをしっかりと呑み込んだ後で、笑って、『いいね』と言ってくれた」

●ジョニー・キャッシュの伝記映画とは違う、よりアンサンブル劇であること。

「ジョニー・キャッシュの伝記映画では、ジョニー・キャッシュというアーティストを、彼の生い立ちによって定義できるものとして描いた。彼の兄が亡くなったこと、子供の頃からの悲しみで中毒になったこと、曲はそれに拘束されて、ダークであること。かなり明らかだと思う。しかしディランの場合は、むしろそのように定義づけられることを避けてきたので、簡単ではない。

この映画は、ディランについてであり、しかし例えば映画『アマデウス』が、モーツアルトについてであるのと同時にサリエリなどについてであるのと同様、ディランの周りの人達についてでもある。

映画で描くのが一番難しいのは、才能とは何なのか、ということ。いかにして特別な人は誕生するのか、ということだと思う。なので、ここではそれに答えようとするのではなくて、それが我々にどのような影響を与えるのか? 自分の存在にどのような感情をもたらすのか、を描いた。嫉妬、崇拝、愛など、スーパーパワーを目の前にしたら様々な影響力があるはずだから。

それから、ティモシーがここで素晴らしかったのは、真の感情を表現できたこと。人はどのように重荷と向き合うのか? 自分ですらどこから得たか分からない力を持ってしまった時、どのようにそれを守り、大事にするのか? しかもそれが自分を向上させるのか、または破壊するのかも分からない時。ここでは、とてつもない才能を持った主人公たちの間の微妙な関係性も描かれている」

●パフォーマンスを撮影中、生でレコーディングしたことについて。

「ティモシーがそうしたかったから。

ライブパフォーマンスを撮影中に生でレコーディングすると、誰か1人が1音失敗しても、そこだけ後で差し替えることができない。でも、ティモシーが、勇気を持ってそれをやりたいと言ったのだから、僕も勇気を持ってカメラの後ろに立ってそれを撮影しなくちゃいけないと思った。

コロナのせいで、何度か撮影が延期になったために、ティモシーは、ミュージシャンとして成長する時間ができた。モニカ・バルバロも同様。だから多くの出演者は、それぞれが音楽的な準備をする期間が持てたんだ」

●ティモシーの素晴らしいところ。

「ボブについての疑問に直接的に答えることをしないで、詩的な方法でしている。例えば、音楽は作りたいけど、常に人が目の前にいるのが好きではないかもしれない人物についてを、彼の演技を通して共感できるように示唆している。

ティモシーの演技を観ると、まずボブにとって音楽を作るのがいかに楽しいことなのか、他のミュージシャンと友情、アイディア、歌詞、音楽を探求し、音楽を作って聴くことから得る純粋な喜びを感じると思う。

それとは逆に、偉大な功績のせいで、人が物を欲しがるようになったり、駆け引きをしようとしたり、または莫大な力と才能のせいで人間関係が汚されてしまったことに対して、持って生まれたような不快感を示すすごく深い才能もある。

ティモシーが何より素晴らしいのは、この19歳の青年がこの街に到着して、アイコンと呼ばれるようになるまでの道のりがどんなものだったのか、我々にも体験させてくれること。それは、ティーザーだけ観ても分からないと思う。彼が、このキャラクターになりきる過程は、本当に素晴らしい俳優の演技力を目撃していることだと僕は思ったから」

●ディランのファンは、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでは、ジョーン・バエズとディランが実際は共演していないので、怒るのでは? それは心配したか?

「心配してない。

それに、1964年には一緒に歌っていたわけで、それを65年に再現してはいけないのかな? それに大きな意味では、曲がどのように出来ていったのかについては、可能な限り正確に描いたから」


●ディランが制作に関わっているので、映画はあまり事実に基づいていないと思っている人もいるようですが。

「(笑)それはあなたが言ったこと、ということにしておきます」




ロッキング・オン最新号(2024年8月号)のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

ティモシー・シャラメが、ディランの”はげしい雨が降る”を歌うディラン伝記映画予告編公開。監督がディランと初めて交わした会話などについて語る。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする