オサマ・ビンラディン殺害を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』があまりに凄まじかった

オサマ・ビンラディン殺害を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』があまりに凄まじかった

とうとう観た!オサマ・ビンラディンの殺害を描いたキャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』。この作品が凄まじかった。

さてどこから話せば良いか。

まずこの映画の素晴らしいところは、とにかく真実をひたすら追求した、というところだ……と言っても、歴史上、最も重要なオペレーションのひとつであり、アメリカ政府が情報を提供をしたわけではないので、私たちにこれがどこまで真実なのか知る由もない。しかし、観客を楽しませるためのハリウッド的なサービスの脚色は思いきり削ぎ落とされていて、ほとんどその場にいて現場を目撃しているようなリアリティで迫ってくる作品なのである。

そのあくまでジャーナリスティックな視点を貫き通した決断が、あまりに強靭だし、大胆だし、勇敢である。変な言い方だが、どんな男性監督にも作れなかった、最も男らしい作品なのである。そして、言ってみれば、『アルゴ』とは対照的な作品だ。『アルゴ』は『アルゴ』として本当に素晴らしい作品だったわけだけど。

しかも、それなのに、映画を最後まで見せてしまう力というのは、とにかく脚本がもの凄く良く書けているのと、監督の才能がとてつもなく優れているからである。

そもそも、このビンラディン殺害について私たちが知っていることは非常に限られているので、まず起きたばかりのことをここまで調べ上げたその情報収集力にも驚かされるし(どうやって入手したのかは明かしていない)、映画によって、ここで何が起きたのかを私たちが初めて知るというその事実自体が凄まじく重い。実は映画は、ビンラディンが殺害される前に制作が開始していて、ビンラディンが殺害されたので、終わりを書き直したくらいだったのだ。だから私たちのまだ記憶に新しい出来事が、こうやってもう映画になってしまったのだ。

さらに、この映画を観るまで知らなかったのだが、ビンラディンの隠れ家を見付けたのは、ジェシカ・チャステイン演じるCIAの若い女性なのである。

この男性が仕切っていると思われる社会の中で、女性が見付けたということ自体が、男性に支配されていると思われるハリウッドで初の女性監督としてのオスカーを獲ったキャスリンがこの映画を撮りたかった理由とも思いきり重なる。

ちなみに、映画の中で明かされるんだけど、このCIAの女性は高校を卒業したと同時にCIAにスカウトされたというのだ。高校で一体何をやったんだろうか。思いきりIQが高いとかそういうことだけじゃないはずだ。

それで、まったく驚くのが、この作品は、これだけ政治的な大事件を扱っていながらも、まったく政治的な映画ではないことなのである。実際、殺害については論議となったし、映画を観ていても、疑問点がたくさん出て来るのだ。しかし、ここでは、どの視点が正しいとか間違っているとかまるで描かれていないのである。ましてや、オバマがヒーローであるわけでもないし、CIAの女性も、実際に殺害したネイビーシールズも誰もヒーローではないのである。全員がただ自分の仕事をまっとうしただけの人なのである。しかし、だからこそ、リアルであり、どかんとそれが目の前に叩き付けられ、思いきり観客に突き刺さってくる作品なのだ。

今年のアカデミー賞はヤバい。素晴らしい作品が多すぎる!みなさんどんどん映画観てください!

日本語の予告編はこちら。
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