カルヴィン・ハリスはフランク・オーシャンとの“Slide”で何を描き出したのか

カルヴィン・ハリスはフランク・オーシャンとの“Slide”で何を描き出したのか

優美なピアノ・リフから始まるカルヴィン・ハリスの新曲“Slide feat. Frank Ocean & Migos”は、言わばフランク・オーシャンの『ブロンド』と地続きになった楽曲であり、アルバム『モーション』以降に華々しいエレクトロ・ハウス/ディスコと距離を置いて瑞々しく情緒豊かなトラックを手がけてきたカルヴィンと、個人的な愛の日々に思い悩みながら「美」に則って自己表現を行ってきたフランクがシンクロするという点で、シーンに広く訴えかける化学反応を示したナンバーだ。

甘くレイドバックした“Slide”は、第一印象としては非常にチャラい楽曲に思えてしまうところがあるかも知れない。《銀行口座なんて空っぽになったっていいんだ/『パイプを持つ少年』を買ってしまおう》というヴォーカル・リフレインから始まるこの曲に触れたとき、大方のリスナーが「どこのブルジョワの話だ」と眉を潜めるのも無理はないだろう。『パイプを持つ少年』というのは、2004年にサザビーズ・オークションで1億420万ドルという額で落札されたパブロ・ピカソの名画のことだ。

フランク・オーシャンは、『チャンネル・オレンジ』や『ブロンド』に収められた“Pink+White”や“Solo”のように、心象のイメージを色彩として届ける「歌う画家」としての一面を持っている。リスナーはその色彩のイメージをキャッチすることで、彼の心象風景を彩り鮮やかに再構築しながら感情を共有するというメカニズムがあるわけだが、“Slide”はロマンチックな夜の一瞬一瞬を絵画的に、あるいはスライドショーのように、イメージとして強く焼き付けてゆくナンバーになっている。「財」ではなく「美」として絵画の価値を見出し、そこに豊かさや救済の意味を置く。そんなフランクの揺るぎない姿勢が込められた歌詞と歌がある。

21世紀のディスコ・ミュージックをリードしてきたカルヴィンは、この上なくエレガントに滑らかに響くこの楽曲によって、孤独感を抱え込んだ性的マイノリティのシンガーであるフランクの主張にしっかりと寄り添っている。EDMバブルが弾けた後に、ディスコ・ミュージックが鳴る必然とは何なのか。ここでも「財」以上の価値を持つ「美」の形が問われているというわけだ。

リッチな狂騒の夜をラップしまくるミーゴスのヴァースのおかげで、「財」では救われることのないフランクの魂は一層切なく浮き彫りになってゆく。ユニークなカネの使い方で話題を振りまき続けるチャンス・ザ・ラッパー然り、成功したアーティストのカネの使い方にも注目が集まる今日は、音楽によって「豊かさとは何なのか」が問われる時代の到来を告げているのかも知れない。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする