インヘイラーのデビュー・アルバム、『イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス』が全英1位を獲得!という嬉しいニュースが飛び込んできた。
イギリスで1位を獲ったアイルランドのアーティストは過去10年で彼らも含めて3組しかおらず、同作はデビュー・アルバムとしては実に13年ぶりの快挙を達成した作品ということになる。インヘイラーのこの快進撃を伝える現地のニュースを見ていると、イライジャがU2のボノの息子だということに触れたメディアは既にほとんど無かった。デビューから2年、草の根レベルで地道に熱狂的なファン層を開拓してきた彼らはもはや親の七光りを必要としないステージに立っていると言っていい。それでも親から子へ、レジェンドから新世代へと受け継がれた鮮烈なギター・ロックに、胸が熱くなってしまうのは私だけじゃないはずだ。
そう、『イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス』の成功が証明したのは、どんなギミックや逃げ道も必要とせずに、今なおギター・ロックはギター・ロックとして勝てるということだった。ロックの脆弱さが事あるごとに指摘され続けた2010年代を終えた今、UKやアイルランドではギター・ミュージックが再びのルネッサンスを迎えている。中でもインヘイラーは、誰もいなくなって久しかったギター・ロックの王道のど真ん中に立とうとしているバンドだ。思春期の憂鬱をナイーブなまま突破するイライジャの歌声、甘さと鋭さ、高揚と洞察を兼ね備えたジョシュのギター、4人それぞれにキャラ立ちしたロック・バンドとしてのカリスマ性、そして圧倒的に若いリスナーと共に、彼らは真っ直ぐに突き進んでいく。
ちなみに『イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス』の成功でもうひとつ特筆すべきは、同作の売り上げの実に90%以上がフィジカル(アナログ、CD、カセット)で占められていたこと。サブスクのストリーミングで育ったZ世代にレコードを買いたいと思わせたインヘイラーは本当に強いし、それはロックの普遍性の在りかを指し示すものでもあったと思う。 (粉川しの)
インヘイラーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。