「僕は美しい音楽を作りたいと思った。なぜならその美しさが最も鋭利なものだったからさ。
誰かに注目してもらいたければ、美しいものと一緒に提示すればいい。
そうすれば、彼らは姿勢を正して聴いてくれるし、真の意味でアイデアを覆すチャンスが巡ってくる」
マシュー・ヒーリーはかつて、過剰に多様で分裂したThe 1975の音楽について「大胆になろうとしてるんじゃなくて、退屈を回避しようとしてるだけ」だと語った。退屈を回避すること、それは世界の今を投射し続けるバンドの同時代性の原動力であり、彼の気まぐれで矛盾したパーソナリティを生む行動原理でもある。
『仮定形に関する注釈』のリリース直後に行われたこの取材でも、そんな彼の行動原理は健在だ。大作を作り終えてひと息つく間もなく新たなアイデアがどんどん湧き上がっているのが窺える発言集であり、これまたあちこち脱線しながら話題も多岐にわたる。
仮想現実時代の本格到来を待ちわびながら、一人一派時代のサブカルチャーの旗手としての自覚を持ち、「デジタル・ユートピア」を予言するマシューの発言からは、彼が高度なテクノロジーが支配する未来をポジティブに捉えていること、高い確率で起こりうる負のエフェクトすら開き直って引き受けていく逞しさを感じるはずだ。
そしてこうした彼のメンタリティこそが、『キッドA』的なデジタル・ディストピア、00年代のナイーブさと一線を画すThe 1975と20年代の現在地なのだと思う。(粉川しの)
The 1975の記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。