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    2024年の洋楽シーンを総ざらいして語り合う! 圧倒的なビヨンセの新作とカントリーの動き、クラシックロックに起こった世代交代、ポップスの巨大化etc.

    2024年の洋楽シーンを総ざらいして語り合う! 圧倒的なビヨンセの新作とカントリーの動き、クラシックロックに起こった世代交代、ポップスの巨大化etc.

    2024年の音楽シーンは、多様なジャンルの進化と新たなムーブメントが交差する刺激的な一年でした。そんな激動の2024年を振り返りながら、編集長の山崎洋一郎、ライターの木津毅、つやちゃんが徹底討論! 2024年総括座談会をお届けします。(rockin’on 2025年1月号掲載) 



    山崎 ではまず総論から話していきましょう。いわゆるロッキング・オン的に見たときに、20年、30年以上続いてきた、現代のポップ/ロックと、クラシックロック/ポップの区別ってあったじゃないですか。そのクラシックロックっていう定義が、30年ぐらいずっとクラシックロックといえばいわゆる60年代、70年代のザ・ビートルズでありザ・ローリング・ストーンズでありレッド・ツェッペリンでありボブ・ディランでありデヴィッド・ボウイであり、っていう概念でずーっと変わらなかったんだけど、ここにきてようやくクラシックロック世代交代みたいなものがガクンと起きた感じがしています。

    つまりそれは、今の40代以上が熱心に聴いていた80年代の音楽、あるいは90年代の音楽、もしかしたら00年代も入るかもしれない、ぐらいのものが現代のクラシックロックになっているっていうことを、みんなが受け入れたというか、対象化した、という気がしているんです。いちばん象徴的なのはオアシス祭り。


    60年代もの、70年代ものっていうのは、そういう祭りがこれまで毎年のように起きていたわけじゃないですか。クラシックロックといえばボブ・ディランのワールドツアーとか、ザ・ローリング・ストーンズが活動再開ってなったら、クラシックロックの世界はザ・ローリング・ストーンズ一色になっていた。その存在が、もはやオアシスであり、あるいはリンキン・パークの再結成になったのかなっていう感じが非常にしています。っていうのがロッキング・オン周辺の、ロック系のリスナーを見ていて感じる部分ですね。

    あと、もうひとつ今年強烈に思ったのは、アメリカのチャートにおいて、カントリー、アメリカーナの不気味なまでの復活ぶりというか、再浮上のインパクトがとても強い。ある種、アメリカ国内での、ドメスティックなムーブメントではあるんだけど、それをいってしまえば、ヒップホップだってなんだって、アメリカのドメスティックなうねりみたいなものが、いわゆるワールドワイドな音楽シーンのメインストリームになってきたっていうことにおいては変わらないからね。僕は今回の、カントリーの復興に関しては、これはいいことなのか、ポジティブに捉えていいのかどうか、ちょっと疑問符があるんです。そして最後にもうひとつは、常にお祭りだったヒップホップシーンが、平常モードになって、その熱が下がった部分もあるけど、面白味が増した部分もあるなあと。ざっくりその3つのポイントが今年、面白いと思った部分ですね。つやちゃんはどうですか?

    つやちゃん いちばんは、今山崎さんがおっしゃったうちのひとつ目ですね。まさに1年前に同じような話をしましたけど、この何年か90年代、00年代のリバイバルが起きていたじゃないですか。それを去年ぐらいまでは、トレンドみたいなものとしてギリギリ捉えていたんですけど、今年に入って、いやこれはもうトレンドじゃないなと感じました。トレンドというよりは、ちゃんと歴史に根付いた運動になったなという気がしていて。なんでそれが起きたのかというと、やっぱり若い世代の感性と、リアルタイムの人たちの感性が、うまく交差して、新しい捉え方になって、それがどんどん根付いていったっていうことなのかなって思っています。

    トレンドと思われていたリバイバルっていうのが、それこそコロナぐらいからずっと3年、4年続いていると思うんですけど、それがもう浸透し切って、前提というような形になっている。プラス、そこからどういう表現をしていくかっていう次のフェーズに進んでいきはじめているところで、かなり90年代、00年代に対する捉え方が変わったなっていうのは、すごく感じますね。意外に、オアシスみたいなところでいうと、日本がそれをけん引しているのかもしれないとか(笑)。洋楽との世界的な時差だったり、ズレや解離だったりっていうのが、日本では近年進んでいますけど、日本独自の90年代の捉え方という点では、意外にある意味進んでいるところもあると思います。そのねじれ?みたいなものが面白いなあという印象です。

    山崎 僕も最初そう思っていたんだけど、あの欧米でのオアシスのチケットの売れ方を見ていると、日本人だけがノスタルジック90sマニアみたいなところで盛り上がっているんじゃないんだ!って思った。これは日本独自のブームとかトレンドとかというより、概念が変わったんだなっていう感じがしましたね。時代に対する概念というか。

    木津 今年、ノルウェーの首都オスロで開催されたフェスに行く機会があって、それが街中の公園で、中規模よりちょっと大きいぐらいのフェスなんですけど、1日目のトリがrockin’on sonicにも出るパルプだったんですよ。90年代のレジェンドとして、同窓会的な盛り上がりになるのかと思ってたら、全然そんなことなくって、僕の隣にいた、20代前半ぐらいの女の子たちのグループが“ディスコ2000”が始まったときにウワー!って踊っていたんです。


    近年、オアシス、ブラー、ブリットポップに再評価の波が来ていて20代の子たちが聴いているとか、レディオヘッドも若い子たちは『キッドA』以降よりも『ザ・ベンズ』のほうが聴かれているっていう話があって、ほんとかな?って思っていたんですけど、本当にそういうことが起きているんだってそのときに実感したんですよね。

    もうひとつ、世代の話題でいうと、ダッドロックっていう言葉があるじゃないですか。親父ロックみたいなことですけど。それが、どちらかというと昔はエリック・クラプトンやザ・ローリング・ストーンズを指していたのが、リンキン・パークやレッド・ホット・チリ・ペッパーズみたいなところに降りてきているのが話題になっています。


    ただ、昔にダッドロックっていうときは、『親父ロックって、自分たちの時代とは違う、古臭いロックだよね』っていうちょっと揶揄的なニュアンスが含まれていたような気がするんですけど、今はお父さんのレコードのカタログにあるような音楽で、自分もアクセスできるものっていうポジティブな意味に変わってきているところもあるらしくて。クラシックロックの捉え方も、90年代に移りつつ、しかも、わりとポジティブなものとして、歴史に根差したものとして理解したいっていう感じが、今、いろんなところのシーンに表れているのかなって気がしていますね。

    つやちゃん いわゆるオルタナティブなサウンドって、以前だと、ニルヴァーナ周辺のオルタナ/グランジを指していることが多かったんですけど、そこからわりと拡大解釈されている。オルタナティブに近い、荒々しいサウンドを、若い人たちはオアシスとかにも感じているみたいです。オルタナティブというと語弊があるかもしれないですけど、荒々しいサウンドという意味合いが、すごく広い意味で使われている印象を最近受けていますね。オアシスにオルタナティブ性とか、あまり感じていなかったじゃないですか(笑)。ギターが荒くていいよね、みたいな(笑)。USのアンダーグラウンドなバンドに比べたら全然なんですけど、そんな感じに捉えられているっていうのが、すごく新鮮ですよね。

    山崎 それこそ、rockin’on sonicをなんでやろうと思ったかって、これまでは80年代とか90年代とかは正直後ろめたさがあったんです。若い子が、『80年代っていいですよね。90年代のサウンドってかっこいいですよね』って言っていても、ダメだよそんな後ろばっかり向いていたらって思うような、ネガティブな要素を感じていたんですよ。でももはや普遍的なものになったんだから、それは感じる必要ないなって思ってあのフェスを企画したところはあります。

    つやちゃん 若い人のほうが、そこはアップデートされている感じがします。

    木津 僕は90年代のサウンドのある種の精神性、当時のちょっと行き過ぎた反骨精神みたいなものとか、逸脱性みたいなものがもっとサウンドとしてフラットに受け入れられるようになったのかなって、思っているんです。90年代は、やっぱりジェンダーの問題とか、今の時代から見たら古臭いなって思うことがあったけど、それは一度批評を終えた段階にいるから、もっとサウンドとしてフラットに取り入れることができる段階に来ているのかなって印象がありますね。

    つやちゃん そうなってくると、若い世代のサウンドが、どうしても小粒に見えるというか。新しいことをやろうって考えが少なくなっていて、そこが新しいバンドの聴き方として難しいところですよね。それをやればやるほど、相対的にどんどんオリジナルの世代が輝いていくっていう仕組みになっていくので。

    山崎 そうですね。そういう意味では、バンドサウンドで、新たなイノベーションを生み出すハードルは高いと思う。でも、それはきっと、各時代にそれぞれあったんじゃないかな、とも思いますね。60年代から70年代に移行するときも、60年代のビートルズとかザ・ローリング・ストーンズのロック以上の一歩先を行くサウンドを生み出せるのかな?って思いながら、きっと70年代のバンドはやっていたんだろうし。80年代のポストパンクバンドも、あの60年代、70年代のロックの黄金時代より先へ進むことは果たしてできるんだろうか?って思いながら、インディの、コクトー・ツインズにしても、モノクローム・セットにしても、ギャング・オブ・フォーにしても、ワイヤーにしても、試行錯誤してきたんだろうし。だから、きっと出てくるよ。

    つやちゃん rockin’on sonicも、そのへんの新世代を入れていますもんね。

    山崎 ほんとはもっと入れたかったんですけどね。でも日本は、さっきおっしゃった意味とは逆のねじれを僕は感じているんです。おじさんたちは90年代に向かってチケットを買ってくれたんだけど、若い人はなかなか動かないんですよ。だから、日本はむしろ90年代に対して遅れているなっていう。先んじて過大評価するんじゃなく、逆に若い世代はまだ手を出せていない感じがしますね。木津さんは今年の総論はどうですか?

    木津 僕は、ビヨンセあるいはテイラー・スウィフトの話にしても、音楽誌ではない一般メディアで政治/社会/経済の話と絡めて音楽が語られることが非常に多くて、それがすごく窮屈に感じる年でしたね。今年はアメリカ大統領選があったという影響も大きいと思うんですけど、テイラーが海外でライブをすることでGDPが動いたって話が出たときに、じゃあ、それほどの影響力を持てないアーティストの価値ってなんだろう? 世の中の一般における価値ってなんだろう?っていうところまで、つい考えてしまって。インディ/オルタナティブの価値って、どういうふうに守られていくんだろう?ってすごく考えた一年でしたね。カントリーに関しても同じくなんですけど、大きな動きに話題が集中していて、そこがすごく窮屈に感じた年でしたね。

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