2024年の洋楽シーンを総ざらいして語り合う! 圧倒的なビヨンセの新作とカントリーの動き、クラシックロックに起こった世代交代、ポップスの巨大化etc.

木津 僕は2位にザ・ラスト・ディナー・パーティーの『プレリュード・トゥ・エクスタシー』を置いたのが、なかなか思い切ったなって感じがしました。


ザ・ラスト・ディナー・パーティーと、チャペル・ローンのアルバムがコーチェラを経て大ヒットしたところも含めて、ある種の演劇性や装飾が面白くなっているっていうのは、ひとつ、今年の大きい傾向かなと思っています。しかもそこに、まさに現代の文脈においてクィアってものが入っていて。ビリー・アイリッシュとかも入れてもいいと思うんですけど、クィアポップが、完全にスタンダードになったなって感じていますね。

そこで面白いのが、クィアってLGBTQの象徴としてわりとフラットに使われている言葉ですけど、もともとは異性愛批判とかから逸脱する意志みたいなものを表すものだったんですよ。それが今、若いアーティストに再解釈されているっていうのがここ10年ぐらいあって、そして今は完全にスタンダードになったんだなって思うんです。そうなったときにどういうことが起こるかというと、80年代のときの、わりと異形としてのクィアを強調するのとも違うし、2010年代のアイデンティティ政治とすごく紐づいたクィアっていうのとも違う、パーソナルなものとしてクィアを解釈する。

例えば、ビリー・アイリッシュの今年のアルバム『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』って、すごくパーソナルなものだったと思うんです。そして、その表現がメインストリームのポップのど真ん中になるっていうのが、すごく面白いことだし、時代は変わったなって感じが僕はしています。ザ・ラスト・ディナー・パーティーやチャペル・ローンはその見せ方っていうところで、ずば抜けてうまい人たちだなっていう感じはしていますね。


つやちゃん ナラティブをいかに作るか、みたいなところと近いんじゃないかと思っています。そのひとつとして演劇性みたいなところが有効活用されていると思うんですよ。テイラー・スウィフトはもちろんそうだし、サブリナ・カーペンターとか、あとはアリアナ・グランデの新作もそうでしたけど、いかに没入感を作れるようなナラティブを紡いでいくかっていうのが、みんなすごくうまいなと思っています。そういうところでは、私生活とSNSの境目がなくなっていて、ドキュメンタリー風な作り方をしていたりするじゃないですか。で、そこに如何に比喩を絡めるかとか、自分の心情を吐露するかとか、いろんな素材を作って、自分っていうものを中心に置きながら、ナラティブをどう作っていくかっていうところの力量がある人たちが、すごくこのランキングでも上位に来ているし、世の中でも評価されていると思っていますね。

しかも、それにファンダムっていうものが形成されていくじゃないですか。ザ・ラスト・ディナー・パーティーもファンダムが強いですよね。ファンダムの功罪みたいな否定的な部分も最近は言われていますけど、ナラティブをどう使ってその演劇性を高めていくかっていう面白さと繋がっているところもあるので、ある意味そこは全否定できないと思います。中堅とかでキャリアがある人が培ってきた力量でやっていくっていうのは、すごくわかるんですけど、ザ・ラスト・ディナー・パーティーみたいな新人がさらっとやってのけたのは、すごくポジティブだと思いますね。

山崎 実はザ・ラスト・ディナー・パーティーは当然ランキングで高いポジションにつくと思っていたけれど、なんでビヨンセの次の2位まで高くしたかっていうと、今おふたりがおっしゃったような、このバンドの本質みたいなところをいったん除外して考えて、普通のニュートラルなバンドとしてすごいと思ったから、ここまで上げたんですよね。今年のフジロックのメインステージでのライブを観たんですけど、圧巻だったんですよ。あそこまでの完成度とあそこまでの迫力のライブをやれるっていうのはバンドとしてとんでもないなって思いました。それにプラスして、おふたりがおっしゃったような、独自のアイデンティティみたいなものがあって、これはもう圧勝でしょうっていう感じなんですよね。

あとランキングでいうと、ザ・キュアーの『Songs Of A Lost World』はほんとに文句のない作品でした。


よくぞこれだけ覚悟を決めて引き受けたアルバムを作ったな、かっこいいなって思います。7位にした意味は今年のレジェンド枠って感じですね。今までなら、今年のレジェンド枠、誰にしようか? ディランかな? それともザ・ローリング・ストーンズの新譜かな?っていうクラシックロックゾーンがあったんだけど、今年は80年代のキュアーが最適だろう、ということで。

つやちゃん まあ、後続への影響っていうところで、桁違いですよね。

山崎 まさにクラシックなんですよ。

つやちゃん そうですね(笑)。逆にキュアーは、若い人たちに全然気を遣わずに作った気がします。完全にやりたい放題ですし。そこがいいんですよね。

山崎 1曲目のイントロのドラムサウンドを聴いた瞬間にびっくりしました。80年代のリバーブのかかりまくったドラムサウンドを、2024年にこんな……恥ずかしげもなく堂々とやるんだって聴いているうちに、これ今聴くとめちゃめちゃかっこいいじゃん、っていう感じですね。サウンドにびっくりしました。それ以外だとどうでしょう?

木津 ここでいうレジェンド枠は、16位のグリーン・デイと17位リンキン・パークだと思いますね。20位にいるヴァンパイア・ウィークエンドとかがいちばん難しい立ち位置ですね。ヴァンパイア・ウィークエンドの『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』は、いいアルバムだったと思うんですけど、ほんとに話題になっていなかったですし。ちゃんと評価はされていて『いいアルバムだね』とは言われているんですけど、いまいち盛り上がり切らないのは、きっとそのタイミングが理由なんだろうなって気がします。

山崎 ぜひつやちゃんに訊いてみたいんですけど、グリーン・デイはどうでした?


つやちゃん そうですね、うーん、自分はそんなにぴんと来なかったんですよね。

山崎 でも、グリーン・デイ育ちでしょ?

つやちゃん はい、グリーン・デイ育ちですね。ポップパンクみたいなものが、ちょっと前まで流行っていたじゃないですか。わりとそこでガーッと聴いたなっていう感じがして。ちょっと乗り切れなかったですね、グリーン・デイ。

山崎 わかった。つやちゃんは、グリーン・デイのクラシックロック入りに抵抗しているリアルタイム世代だ。

つやちゃん そういうことなんですか!?

山崎 分かった。突き放して見れないんだ。若い人とか、僕みたいにグリーン・デイより上の世代からすると、めちゃめちゃいいアルバムじゃん、ど真ん中じゃんって思いやすいのよ。

つやちゃん 確かにそうかもしれない。それでいうと、リンキン・パークはボーカルが加入したから、ちょっと違うバンドとして聴けるし、わかるんです。でも確かにグリーン・デイは対象化できていないのかもしれない(笑)。

山崎 ザ・ローリング・ストーンズの新譜をいつまでもいいって言わないオールド・ストーンズおじさんと同じ(笑)。では、それぞれ選んでいただいた今年のベスト2作品について訊いていきますか。じゃあ木津さんからどうでしょう?

木津 僕は、ひとつ目はまさに今日ずっと話してきた文脈でビヨンセの『カウボーイ・カーター』が圧倒的だったなっていうことで。今年を代表するアルバムだったと思います。

もうひとつはスティル・ハウス・プランツっていう、グラスゴー出身のロンドンのバンドで、『イフ・アイ・ドント・メイク・イット、アイ・ラヴ・ユー』です。よりレフトフィールド的な表現が説得力を持つようになってきている動きのひとつだなと思っています。ポストロックを更新しているんだけど、そこにポストロックがあまり持っていなかったエモーションとか官能性みたいなものがすごく入っていてすごくいいです。ちゃんと新しい表現ができていて、リバイバルとは違う形としてのポストロックが出てきているなっていうことで。こういう動きは来年以降、もっと顕在化するんじゃないかという期待も込めて選んでいますね。

つやちゃん 自分は現象っていう意味でいうとチャーリーxcxの『ブラット』を挙げたいと思うんですけど、個人的に選んだ2作品だと、ひとつ目はウィローの『エンパソーゲン』ですね。


ウィローは、音楽的探究っていうのが、どんどんどんどん手を変え品を変え進化していて、声の使い方とかもすごく面白いと思っています。一個のジャンルには当てはまらない、ジャンル音楽みたいなものに回収されない、複雑なテクスチャーとかニュアンスを、一曲一曲に、一小節一小節に詰め込んでいて、その点が桁違いです。初めて知ったときから変わった作品を作るなって思ったんですよね。だから、このユニークな感じっていうのは、過去の作品からも感じてはいたんですけど、今作でさらに強まりました。

ふたつ目はエリカ・デ・カシエールの『スティル』。一般的にはNewJeansのプロデューサーで有名になりましたけど、これもニュアンスの込め方とか、癖みたいなものが気になっています。


ドラムンベースだったりR&B、Y2KのR&B、アリーヤ的なところも含めて丁寧にやっている印象なんですけど、空気感の作り方が独特なんですよ。音の隙間とか、声の隙間が多いような構造にはなっているんですけど、その隙間の空け方とか、その隙間に入れるテクスチャーの癖とか、一個一個の捻りが細かく作られていて面白いです。両方、音楽性は違いますけど、作品としてはそれが面白かったです。

山崎 僕は、ひとつ目はザ・ラスト・ディナー・パーティーの『プレリュード・トゥ・エクスタシー』。このアルバムはずば抜けているなあっていうのがあって。音楽的にはどんな文脈からも等距離に離れている感じがあって、ロック、ポップ、インディとかなににも当てはまらないけれども、どれからも近い、等距離みたいなポジショニングも見事だなと思います。自由と密度を同時に感じる。新人のデビューアルバムにしては破格だと思いました。

あとは似たような意味で、レミ・ウルフのアルバム『ビッグ・アイディアズ』が、僕はすごく好きでした。これも、いわゆるロックでもないし、R&Bでもないし、ラップでもないし、インディでもないし。でも、そのどれからも等距離にいるみたいなポジショニングがなされていると思います。サウンドに最新性みたいなものは全くないんだけど、聴いた瞬間に、今の子が歌っているいちばん新しい歌っていうフレッシュさがあって、感覚的なことだけど、すごく好きで、自由を感じる。なにからも自由であるって感じを出しているなあって思いましたね。

rockin'on 編集部日記の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on