2024年の洋楽シーンを総ざらいして語り合う! 圧倒的なビヨンセの新作とカントリーの動き、クラシックロックに起こった世代交代、ポップスの巨大化etc.

つやちゃん そうですね、大統領選を見ていると、保守とリベラルっていう二分だけでは到底捉え切れないし、すごく複雑化しているじゃないですか。それと同時に、カントリーも多ジャンルとのクロスオーバーが始まっていて、従来のカントリーとは全然違うし。それこそリル・ナズ・Xがカントリーとヒップホップを融合してみたいな時期はまだ、解釈できたんですけど、もはやそういうレベルじゃないと感じています。カントリーをどう捉えればいいのかっていうのは、自分のなかでまだ答えが出ていないですね。

木津 数年前から“ブロカントリー”っていう、少し男性中心的と言われる批判もされがちなカントリーが浮上しているんですよね。カントリーがある種、昔ながらのアメリカっていうものを、保守/リベラルの対立でいうなら、どちらかというと保守っていうものを受け継ぎながら更新しているっていうのが起こっていて。ただ、一方で、カントリーの今年の顔のひとりが誰だったかっていうと、僕はシャブージーだと思うんですよね。


シャブージーとかは、カントリーとヒップホップを、まさに2020年代のものとして新しくしようとしています。これはまさにアメリカの分断っていうところではかれない音楽が、カントリーっていうものに根差しながら出てきている例ですね。僕は、カントリーっていう全体の保守傾向よりも、そのなかで局所的に起こっていることの新しさはいいことなんじゃないかなって思います。

山崎 なるほどね。僕がカントリーに対して感じているのは、今のカントリーの持っている保守性って、リベラル/保守の保守じゃなくって、保守的な保守。音楽として保守的だと思っていて、だからこそ乗り気がしないんですよね。アメリカのドメスティックな音楽ムーブメントって、50年代のロックンロールも、80年代のヒップホップも、カウンターとして出てきたわけじゃないですか。メインストリームに対する、あるいは権力に対するカウンターとして新しい音楽が出てきて、それがアメリカのドメスティックなムーブメントとなって、世界中の人がエンジョイする。それであれば納得するんだけど、今のカントリーって、カウンターパワーでは全くない気がするんだよね。すげえラディカルなメッセージを放つカントリー歌手が全米ナンバー1になっている、とかだったら、僕はおっ!って、ヒップホップが出てきたときと同じように盛り上がれると思うんですよ。

最初はそういう作品もあったし、ビヨンセの新譜とかは、まさにそういう部分があったんだけど、僕がもういいやって思ったきっかけはポスト・マローンの『F-1 トリリオン』。あの新作を聴いたときに、これは単なる現状肯定で、音楽的にもすごく保守的で、それこそ昔、渋谷陽一が産業ロックって言ったけど、これは全然面白くないなって思って、そこでカントリーの動きに対して懐疑的になったんだよね。アメリカ人がただ現状で気持ちよくなるための大衆音楽でしかなくなっちゃってるんじゃないのっていう気がして。木津さん的にはどうですかね?

木津 それはやっぱ、アメリカっていうのが、社会的に余裕がなくなっていることの表れだと思います。もうひとつあるのは、いわゆるハートランドロック、中西部のロックが再評価されているというか、新しく盛り上がっているけど、僕もあれは、基本的には後ろ向きな現象だと思っていますね。アメリカとはなんだったのかを批評的に読み解くというよりは、古きよきアメリカに浸っていて、アーティスト本人は意識していなくても、どうしても文化的な磁場としてそうなってしまっているなっていう現状はあると思います。まあ、アメリカの保守とリベラルの対立が単純ではなくなっているとはいえ、基本的にはものすごく分裂しているし、アメリカのアイデンティティとは何かっていうところで、みんなすごく苦しんでいるところですよね。

山崎 トランプいるでしょ? あの人は、保守かリベラルかっていう意味では、保守なんだけど、でもトランプを見ていて、カントリーを感じるかっていうと、僕はめちゃくちゃロックを感じるんですよ。つまり、カウンターパワーであろうとする。現状を否定して、新たな現状を招き寄せるぞっていう変革の力みたいなものを感じる。っていう意味では『保守的』ではないんですよ、保守だけど。でも、今のカントリーミュージックは『保守的』に感じちゃうんですよね。

つやちゃん それでいうと、ビヨンセがそういう文脈で評価できるアルバムを作ったというのは、すごく理解できます。1位に置いた意図はなんですか?


山崎 改めて今年出たいろんなアルバムをフルで聴き直してみて、志、クオリティ、そしてアルバムとしての世界観の確かさと巧妙さで、やっぱり流石だなって感じました。これが今年いちばん評価すべきアルバムだと思いました。

つやちゃん 逆にいうと、それ以外を1位に置くと風格が違う。ビヨンセしか残らないなって、圧倒的な感じがしますね。

木津 まさにビヨンセの『カウボーイ・カーター』は、今話していた文脈とそのまま繋がってきますよね。カントリーの伝統っていう部分に、ものすごくリスペクトを示すと同時に、でも、カントリーが今とは違う道を辿っていたらどうなっていたのかっていうイマジネーションがコンセプトになっているから。音楽的なチャレンジがめちゃくちゃ入っていて、そこがまさに、保守/革新の思想としての革新、態度としての革新性。それがきちんと、カントリーをコンセプトとしたアルバムのなかにガツンと入っているところが、他のカントリーアルバムと全く違うところだと僕も思っています。

山崎 すごく批評的ですよね。

木津 そうですね。まさに僕が、大きい話題しかなくなって嫌だっていう話をしましたけど、ビヨンセってどうしても民主党支持で、カマラ・ハリスの⋯⋯みたいな文脈で語られることが多いんですけど、アルバム自体は左右で分けられないアメリカっていうものの文化を捉えるものだったので、かつてブルース・スプリングスティーンとかがやってきたことを今のものとしてやっているんですよね。そこは彼女の志の高さみたいなものがものすごく出ていると思います。だから一般メディアで、民主党うんぬんばっかりでビヨンセを語られるのは嫌だなって思っていたのは、作品は違うのに、って感じていたところも大きいです。

山崎 さっき木津くんが『一般メディアで政治/社会/経済の話と絡めて音楽が語られることが非常に多い』と言っていた、経済との関係っていうのはどう考えているのか話してもらえますか。

木津 大統領選の話を追っていたとき、20年前だったら、インディロックミュージシャンが大統領選でどう動いたか、みたいな話はもっと話題になっていたよなって思うんですよね。それは、まさに政治的影響力っていうことよりは、インディロックミュージシャンの経済的な影響力のなさが、話題のなさに結びついているんだろうなって思っちゃったんです。チャートを動かすだけの現実的な力があるっていうことが非常によしとされている感じ。だから、テイラー・スウィフトを語るときに、彼女の表現の内容よりも、国の経済を動かすみたいなところに注目が集まっていたような気がします。

山崎 なるほどね。それこそ、サブスク、SNSがここまで普及して、あらゆるデータを通じていろんな情報を吸収して処理するような、今の世代ってそういう要素がすごく強いと思うんですけど、そのSNSやサブスクによって、音楽が平等になったっていう言い方もできるんだけど、逆に、すべてが情報として入ってくるから、数値化されていってしまったのは、あるんじゃないかなと思いますね。音楽をすごく自由にしたんだけど、逆に、オーガナイズしてしまったみたいな。

だから、みんながサブスクで音楽を聴くことによって、旧来的なチャートやなんとかから解放されたっていう言い方もできるけど、サブスクで聴いてるからこそ、ものすごく膨大なデータに支配されてしまう、そういうことが起きてるのかなって思います。

木津 実際、過去のカタログも含めて、よく聴かれているものが、よりよく聴かれるっていう環境にあることは、サブスプでよく指摘されています。小さなものが発見できなくなっているっていうのは、まさに環境の問題っていうところも含めてそうなんだけれども、今年は完全にメディアもそれに引っ張られている形になっちゃったとすごく思います。

つやちゃん そういう状況のときに、ある意味では価値観が画一化しているところもあると感じていて、そこに問題提起したのが、チャーリーxcxだったと思うんですよ。


今年の『ブラット現象』っていうのは、あれ自体音楽作品っていうのはもちろんだけど、アートワークとか、総合的な現代アートのようなものなんじゃないかと思っていて。つまり何がイケてるのかっていうことを世間に問いかけるっていう意味で、そこに答えがあるというよりは、『どう思う?』と、みんなそれぞれの答えを持っていいよっていうことを問いかけた取り組みだったんじゃないかと思うんですよね。それが大統領選に紐づいて、そういうふうに解釈されたっていうのは皮肉っちゃ皮肉なんですけど。本来そういうものじゃなくって、問題提起を起こすものだったと思うので。あれが世界中でヒットしたっていうことに対して、自分はすごくポジティブに捉えていますね。

木津 僕も、今年いちばん驚いた現象はブラット・サマーで。今振り返っても、結局なんだったんだろう?ってよくわからないことこそが面白いムーブメントで、久しぶりのトレンドらしいトレンドだったなと思います。しかも、『Kamala IS brat』って話が出てきてブラット・サマーが終わった、みたいな話もされましたけど、チャーリー本人は愉快犯としてやっているようなところもありました。

ニュース番組とかで全然音楽を知らないおじさんとかが『チャーリーxcxっていうイギリスのミュージシャンがいて⋯⋯』って言ったときに、おじさんにはこのトレンドはわからないよね、みたいな、久しぶりに世代に根差したトレンドみたいなものが出てきたなっていう感覚があって。それは結構、24年における特異的な出来事だったなって思っていますね。

山崎 では、続いてランキングに突入しましょう。1位から20位に入っている作品から、ランダムにピックアップして話していただけますか。

つやちゃん 10位のタイラー・ザ・クリエイター、『クロマコピア』ですかね。


ヒップホップの衰退、あるいは凋落みたいなことが言われがちで、23年ぐらいから盛り返したものの、パワーとしては落ちている状況ですけど、実はすごく細分化と多様化が進んでいるんですよ。ある種ヒップホップの村のなかに閉じていったところもあると思っていて、だからこそ、今年のヒップホップのビーフの盛り上がりがあったんだと考えています。例えばドリルとかレイジとかプラグとか、サブジャンルがすごく多いなかで、新しいものができたり、かなり盛り上がってきているんです。

もうひとつ、音楽的な実験もなされているときに、それを大文字のポップミュージックとしてやるっていう意味で、去年(23年)のリル・ヨッティーからの流れが大事なんじゃないかなと思っています。実際リル・ヨッティーが『レッツ・スタート・ヒア』を作ったのも、タイラーの影響があったと話していますし、今、ヒップホップのなかのいろんなサブジャンルですごくブレイクしている人たちと、かたっぱしからコラボしているのがリル・ヨッティーなんですよ。で、そこの目の付け所もすごい。

つまり、リル・ヨッティーとタイラー・ザ・クリエイターが、ある意味では『個』の動きとしてヒップホップとポップミュージックの関係性っていうところで、すごく面白い実験をしていると思っています。ラップとかヒップホップカルチャーが今まで、この10年間ぐらいでやってきたドラッグカルチャーの解釈をどう音楽に落とし込むかっていうことを、ラップ外のジャンル、ロック、そしてファンクも含めながら、広くやっているんだと自分は解釈していています。そういう意味では、2010年代で解釈した感覚をもとに、今、さらに新しいことをやっているのがこのふたりのアーティストなんじゃないかなって。そういう意味で、シーン全体というより、アーティストの個の動きっていうのが面白いと思っています。

山崎 それこそドクター・ドレーとかカニエ・ウェストみたいに、自分の腕だけでガンガン進んでいく感じではなくって、わりと今の時代を冷静に見て、興味深いものを上手に、しかもいいサイズでオーガナイズして、新たにプレゼンするのがうまいタイプのふたりだなっていう感じはしますよね。

つやちゃん そうですね。まあタイラー・ザ・クリエイターは、そういう力があるって前からみんながわかっていたと思います。なので、やっぱり予想通りすごい作品を出してきた、っていう感じはしましたけどね。リル・ヨッティーの変化は、すごく興味深いと思います。

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