本誌ロッキング・オンの創刊メンバーで、3月に他界した松村雄策のエッセイ集『僕の樹には誰もいない』が刊行される。書籍化されていない原稿の分量は相当あったと思うのだが、亡くなる直前のものまでもピックアップされていて、晩年の松村さんをフラッシュバックさせてくれる内容になっている。ぼくはこういう仕事に就いている関係で、松村さんともちょっとは交流があったから、ああ、こんなこと言っていたなと、読んでいくととても懐かしく思い出される。
けれども、これは松村さんの原稿なので、この本をまとめて読めば、別にぼくのように個人的に松村さんと触れ合っていなくても、時間が経てば読者にも、ああ、松村さんはこんなこと言っていたなという記憶になっていくはずだ。そして、それはぼくの松村さんの記憶とほとんど違ってこなくなるはずだ。松村さんの記憶は、そういうふうに人を選ばないものなのだ。
ぼくがずっと昔、『アビイ・ロードからの裏通り』の頃から、松村さんのことを個人的に知っていたような気になっているのは、松村さんの原稿がぼくをそんな気にさせてくれていたからだと思う。おそらく松村さんの書き手としての最大の魅力はそんなところにあるし、このエッセイ集もまさにそういうものだ。
原稿は大まかにジャンル分けされて、さらにこの10年くらいを遡っていくものになっている。あの3 .11大震災の頃をひとつの区切りとしていて、このエッセイ集の時間の流れもわかりやすいものとなり、当然といえば当然なのだが、それが松村さんの最期までへと繋がっていく流れになっているところがなんともやるせない。けれども、その流れを読んでいくことがこの本の最大の糧なのだと感じさせてくれるところが素晴らしい。
そうしたなかでも、ジョン・レノンをめぐる原稿が冒頭に集中しているのも嬉しい。というのも、松村さんが一番尖がっているのはジョンについて書く時で、これが松村さんの原像だからだ。けれども、ぼくが出会えてよかったなと感謝するその人柄はやっぱり終盤で触れていく文章になっている。 (高見展)
松村雄策の記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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