ボブ・ディランの来日が決定した! 今年で82歳を迎えることになり、それもまたすごいことだが、今回の来日もまた格別な意味合いを持っている。というのも、ノーベル賞受賞後、初の日本ツアーともなるからだ。実はボブは2020年4月に受賞後初の来日ツアーを予定していたが、ツアー自体は前年の19年12月まで敢行されていて、20年4月に日本から再開というところでコロナ禍のために中止になった。
それまでの公演のセットリストは、ノーベル賞受賞に応えた、人気曲を数多く取り上げた演目になっていたため、楽しみにしていたファンも多かったはずだ。しかし、20年に入ってコロナ禍がとんでもない様相になり始めると、公演直前の3月にボブは突如、新曲“最も卑劣な殺人”をリリースした。
これが15年の『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』以来続いた、40年代から50年代にかけてのアメリカのポピュラーミュージックのサウンドの再解釈という試みを続けてきたボブのバンドの絶妙な演奏とともに、ケネディ大統領が暗殺された60年代の時代精神についての心象を約17分にわたって歌い倒すという、とんでもない名曲になった。ボブからのメッセージも、明らかにロックダウンやそれに近い状態に追い込まれた世界中の音楽リスナーへの贈り物ともいえるリリースだった。しかし、この曲はそれと同時にまったく新しいボブの表現の地平でもあった。果たして4月の来日公演はこれが基軸となっていくのかと思いきや、来日はあえなく中止になった。
その後、ボブは20年6月に新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を発表。“最も卑劣な殺人”の領域にはとどまらない、自在な楽曲とテーマの境地を提示する楽曲群による、傑作となった。そして、21年11月からツアーが再開されると、当然ながら、この新作からの楽曲が中軸となり、さらに『ブロンド・オン・ブロンド』『ナッシュヴィル・スカイライン』などからの楽曲で構成されるセットリストで昨年11月まで一貫して敢行されている。
今回の来日もそれを踏襲するのか、それとも新機軸が打ち出されるのか。とりあえず悩殺されるしかない。(高見展)
ボブ・ディランの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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