これはもう「帰還」と言っていいだろう。UKサッドの孤高の星=ドーターの、実に7年ぶり(!)の新作『ステレオ・マインド・ゲーム』がついにリリースされるのだから。エレナ・トンラ(Vo&G)を中心にロンドンで結成された3ピースバンドである彼らは、名門4ADの漆黒エクスペリメンタルな伝統を受け継ぐ新人として登場、デビューアルバム『イフ・ユー・リーブ』(2013年)は、UKチャートTOP20入りのカルトヒットになるなど、2010年代のUKシーンに大きなインパクトを残したバンドだった。
あの時代のUKインディのダークサイドで重要な役割を果たしたふたつのバンド、エレクトロニックなザ・エックス・エックスに対して、もう少しフォーキーなドーターという位置付けで記憶しているリスナーも多いかもしれない。
しかし2017年のサントラ『ミュージック・フロム・ビフォー・ザ・ストーム』を最後に、バンドは長いインターバルに入り、その間メンバーはそれぞれのソロ活動に勤しむことに。エレナはエクス:レイ(Ex:Re)名義でのソロで、2019年には来日も果たしている。そんな彼らが再び結集して新作のレコーディングに入ったのは2021年のこと。ちなみにイゴール・へフェリ(G)とレミ・アギレラ(Dr)は、現在ロンドンを離れて暮らしており、レコーディングもロンドン、デボン、ブリストル、カリフォルニア、ワシントン……と各地を転々としながら進められたようだ。
そうした環境からも得られた多視点や回遊性のようなものは、『ステレオ〜』にも如実に反映されている。セカンドの『ノット・トゥ・ディスアピアー』(2016年)はNYのアンダーグラウンドシーンと共振した結果、よりエクスペリメンタルなポストロック的作品となった。今回は、そんな前作でディープに掘り下げて手に入れたものを、一気に宙に解き放つようなアルバムなのだ。『ステレオ〜』は、ドーター史上最もサッドじゃない作品であり、温かくオーガニックなオーケストレーションも含め人生への祝福が感じられる。むしろ過去のアルバムは、彼らが本作の境地に立つまでの伏線だったようにすら思える。
2023年、パンデミックの影がようやく薄れてきたこの時代に、ドーターが帰還した意義の大きさを噛みしめる、彼らと私たちのリスタートだ。 (粉川しの)
ドーターの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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