「ブリジットは僕をベイビーと呼ぶんだ」――実に印象的な名前のシカゴ発の新星5人組:ブリジット・コールズ・ミー・ベイビーが、その名に違わぬ鮮烈なアルバム『ザ・フューチャー・イズ・アワ・ウェイ・アウト』でデビューした。
ソングライター/ボーカルのウェス・リーヴィンズを中心に21年に結成され、22年には早くもミューズのシカゴ公演前座に抜擢。ポスト・ストロークスなギターワークが光る“Impressively Average”を含む昨年の5曲入りEPで火が着き、ファンも急増中……と目をみはる成長ぶりだが、彼らの最大の武器はやはりウェスの歌声だ。
それもそのはず、ロックンロールミュージカル『ミリオンダラー・カルテット』でプレスリー役を演じた前歴を持つ彼は、その縁で映画『エルヴィス』の音楽作りにも関与した(この際に知己を得た同作のサウンドアドバイザー、ナッシュヴィルの大物カントリー/アメリカーナ系プロデューサー:デイヴ・コブは以後BCMBの音作りを担当している)。いわゆる「クルーナー」と呼ばれる、悲喜こもごもを朗々と歌い上げるタイプのシンガーであるウェス。プレスリーやロイ・オービソン、もっと近いところではモリッシーとも比較される張りと伸びのあるため息ものの美声は、そのカリスマな響きだけでも一聴の価値がある。
ってことは、レトロなバンド?と感じる方もいるかもしれない。なるほど、白黒映画のひとコマを思わせるアルバムカバーといいアップバングな髪型+ジャケット着用のウェスのイメージといい、確かにビンテージ志向。バンド名の「ブリジット」も往年の大女優ブリジット・バルドーにちなんでいる。
しかし、ミレニアルなギターロックの躍動感に80年代風シンセのきらめく釉薬をジャストに盛ったサウンド、ポップなメロディとは裏腹に悲劇的な恋愛ドラマを綴る一人称にのめり込んだ歌詞――アルバムの1曲目に置かれたタイトル曲は《遂に終わりが来た》のフレーズで始まる――は、不安だらけの明日/未来よりも今の刹那に全賭けする、20年代感覚を見事に捉えている。BCMBが振り回す、思い切り大きなロマンチックアンセムの花束。そこに散る花びらに感電してみてほしい。(坂本麻里子)
ブリジット・コールズ・ミー・ベイビーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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