日経ライブレポート「テーム・インパラ」

映像と照明の演出がしっかりしていて、とても楽しいステージだった。

テーム・インパラはグラミー賞のオルタナティヴ・ミュージック・アルバムにノミネートされたり、英国の代表的な音楽メディア「NME」の年間アルバムの1位に選ばれたり、高い評価と人気を誇るオーストラリアのサイケデリック・ロックバンドだ。日本にはフェスで何度か来ているが単独公演は初めて。映像や照明と一体となった表現が魅力のバンドなので、その全容が体験できる単独公演へのファンの期待は大きかった。その期待に十分応えるステージだったと言えるだろう。

最近はEDMを筆頭に映像を演出のメインに置くバンドは多い。しかし多くはLED画面を使ったシャープでスピーディーなハイブリッドな演出である。それに対しテーム・インパラはステージ全体をスクリーンとして使い、客席後方から画像を投射するスタイルだ。そのため画面は暗いし解像度も低い。それは1970年代に活躍したサイケデリック・バンドのスタイルを踏襲したものだ。彼らは70年代のサイケバンドの音や世界観を今の時代に作り出すことを大きなテーマにしているから、あえてLED画面ではなくスクリーンを使っている。

重要なのは、それが懐古的なアプローチではないことだ。実際の映像は70年代のモチーフを使ってはいるが、演出は限りなくモダンでハイブリッドになっている。音も同じで、メロディーやアレンジのモチーフは70年代的だが、最終的なサウンド・デザインやビートは今のものになっている。70年代を知る僕のような人間にとって、若い世代から70年代サイケの商品性を再教育されているような感じで面白かった。

4月25日、ZEPP TOKYO。

(2016年5月11日 日本経済新聞夕刊掲載)
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