日経ライブレポート「サマーソニック&ソニックマニア2018」

前夜祭的フェスのソニックマニアにはナイン・インチ・ネイルズ、本編のサマーソニックにはノエル・ギャラガーベック。ロックファンにはたまらないヘッドライナーが今年は集まった。

それぞれ素晴らしかったが、特に印象に残ったのがナイン・インチ・ネイルズ。中心メンバーのトレント・レズナーはトランプ政権下の米国の現状に強い危機感を抱いていて、最新アルバムはそれを強く反映した作品となった。ライブも従来の映像演出を封印し、シンプルな照明とアーティストの肉体性で勝負するエネルギーに満ちたものだった。自らの切迫した危機感を表現するには、そうしたダイレクトなスタイルがベストと考えたのだろう。鬼気迫るパフォーマンスだった。

ヘッドライナーも良かったが、僕が一番楽しみにしていたのがチャンス・ザ・ラッパー。名前通りのヒップホップ・アーティストだ。米国で最も注目されている若手。

レコード会社に所属せず、音楽は配信のみで発表している。にもかかわらず人気と評価は圧倒的。2017年のグラミー賞は最優秀新人賞をはじめ3部門で受賞している。CDなどのフィジカルな音源を発表していないアーティストとして初の快挙となった。

米社会における抑圧的な黒人の立場に対するシリアスなメッセージを訴える曲が多いが、ステージは高揚感あふれるエンターテインメント性の高いものだった。フジロックのケンドリック・ラマーと共に、今のポップミュージックで、最も先鋭的で優れたライブ表現を体験できた。そして優れたポップミュージックは常に社会と向き合っていると強く感じたフェスだった。

8月17日~19日、千葉・ZOZOマリンスタジアム、幕張メッセ。
(2018年9月4日 日本経済新聞夕刊掲載)
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