日経ライブレポート 「スーパー・ファーリー・アニマルズ」

とても楽しい2時間だった。ポップで快いメロディー。ブリティッシュ・サイケデリックともいえる変わらない音楽スタイル。日本語のプラカードを持ち、片言の日本語を連発する素朴で実直なコミュニケーション姿勢。すべてがスーパー・ファーリー・アニマルズらしいもので、来ていたお客さんも大満足であった。ただ何も悪いものはないけれど、ここに今語るべきロックの現在があるのか、と問われると、その答えはなかなか難しい。半ば古典芸能に近いものになって来ているのだ。

確かに古典芸能として時代を超えた輝きを保ち続けているバンドはストーンズを筆頭に少なくない。しかしスーパー・ファーリー・アニマルズはそうしたバンドとは違う。簡単に言ってしまうと、彼らほど古典と呼べるだけの普遍的な音楽スタイルを完成させていないし、もっと実もフタもない事を言えば、彼らほど人気もないし、ヒット曲もない。となると古典芸能を続けるのは難しい。もっとコンスタントに作品を発信し続け、時代と向き合ったイノベーションに挑戦しなくてはならない。しかしきっと彼らはこのままだろう。そして彼らのようなバンドは少なくない。

ロックを職業とするというのはどういう事なのだろう、そんな事をライヴを観ながら考えていた。とても楽しいライヴだし、凄く誠実なパフォーマンスだった。でもこのバンドはひょっとすると、このスケールよりも大きくならないし、新しい展開もないかも知れない。それでもいいバンドであるのは間違いない。仕事としてのロックがこうした形で存在できるのは幸福だと思った。


11月26日 渋谷AX
(2009年12月7日 日本経済新聞夕刊掲載)
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