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    今週の一枚 スウィング・アウト・シスター

    今週の一枚 スウィング・アウト・シスター

    スウィング・アウト・シスター
    『スウィング・アウト・シスター<結成30周年記念ベスト>』


    今週は特に取り上げたい新作がなかったので、ベスト盤を。

    スウィング・アウト・シスターといえば、ほとんどの人が知っているのが大ヒット曲“ブレイクアウト”で、
    多くの年配の人が知っているのが“サレンダー”、“トワイライト・ワールド”、“ユー・オン・マイ・マインド”、
    ちょっと若い人が知っているのが、ドラマ『真昼の月』の主題歌になった“あなたにいてほしい”、
    という感じで意外と日本では広く親しまれているバンドです。

    欧米ではデビュー・アルバムが大ヒットして以来ぱっとしない一発屋扱い(ジャズ・シーンからは高評価を受けるポップ・バンドでしたが)ですから、
    日本との相性が非常に良いバンドです。
    数年前にもケータイの「PREMIUM」シリーズのCMに“ブレイクアウト”が使われていました。

    でも、その日本人にとっても、彼らは耳障りの良いポップ・バンド/BGMとしてちょうどいいイージーリスニング・ポップ、というイメージでしょう。

    と・こ・ろ・が、彼らはバキバキのポスト・パンク、ニューウェイヴ出身なのですよ、意外と知られてないけど。

    オリジナルメンバーのドラムのマーティンはジョイ・ディヴィジョンの前身バンド「ワルシャワ」、そしてバズコックスの後身(?)バンド「マガジン」のメンバーでした。
    そして作曲・キーボードを担当する実質的なリーダー・アンディはザ・イメディエイツ、ア・サーテン・レイシオの元メンバーなのです。

    だから、スイング・アウト・シスターがデビューして“ブレイクアウト”で大ヒットして街中のクラブやカフェで流れまくってOLや女子大生たちがふんふん♪言いながら聴いていた時に、
    僕たち真性ロック・ファンは「おお!これがマガジンとア・サーテン・レイシオのメンバーが組んだ新バンドか!」と衝撃を受けていたわけです。

    まあ、当時はザ・ジャムのポール・ウェラーがスタイル・カウンシルを始めたりと、「ポップこそがポスト・パンク!」という文脈はありましたが、
    それでもスウィング・アウト・シスターの、過去の経歴を一切感じさせないスタイリッシュでキラキラしたポップは本当に衝撃的でした。

    いま聴き直しても、本当にポップとして見事に完成しています。しかもみずみずしい。
    バート・バカラックやモータウンをルーツにしたメロディーとアンサンブル、ポストパンク出身ならではの冷たくソリッドなリズム・トラック、コリーンの華麗ながら抑制の効いたヴォーカル。
    彼らの音楽がいまだにポップスとして消費され、なおかつハイムやfun.といった新世代のアーティストに多大な影響を与えているのは、その実力ゆえです。
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