ロックの夏2013、雑感を書きました

先月末発売のJAPANに掲載した「激刊!山崎」から転載です。


もう8月も終わりですね。僕は7月の終わりからフジロック、ロック・イン・ジャパン、サマーソニックと、いつものフェス3連週があって、続けてサザンオールスターズのスタジアム・ライヴと、巨大音楽イベント漬けでした。巨大イベントは巨大なだけに、開催されるたびにいろんな話題や問題点などがお客さんやそれ以外の人たちの間で話題になり、議論されます。音楽自体についての話題も多いですが、それ以外の音楽事情の話題に花が咲くのもこの時期が多いようです。いろんな場所でいろんなフェスが開催されていろんなアーティストが出ていろんなお客さんが参加するのだから、この時期には音楽事情を共通の話題にして議論が盛んになるのは自然なことなのかもしれません。とてもいいことではないかと思います。僕は仕事柄もちろん年がら年中音楽事情のことを考えたり話したり書いたりしていますが、それでもやっぱりこの時期はいろんなことに気づいたり、認識を改めたり、現実を思い知らされたり、アイデアを思いついたりすることがすごく増えます。とても有意義な季節です。
サマーソニックではミスチルのお客さんの場所取りに対する不満がよく出ていました。いわゆる「ファンのマナー」という問題です。こういう話題は、感情的になっていつの間にかアーティストの音楽性やファンの音楽嗜好まで攻撃するような議論になって不毛化することが多いので注意が必要です。あくまでも「マナー」の話であって、アーティストやそのリスナーの音楽の聴き方まで揶揄するような発言は不毛であることがほとんどです。音楽との接し方、向き合い方は人それぞれです。どれが正しいということは誰にも言えません。あくまでも「マナー」の問題、「人に迷惑をかけない」かどうかという問題に話を限るべきです。
昔、アジカンのゴッチがロック・イン・ジャパンに出たときに、大きなフェスのお客さんは知っている曲でしか盛り上がってくれない、と僕に愚痴ったことがありました。そして、自分の主催するNANO-MUGEN FES.で洋楽のバンドのライヴにお客さんが集まらない、と言って急遽ステージに出て行って観てくれるよう呼びかけたこともありました。今ではNANO-MUGENのお客さんは洋楽のアーティストでもしっかりと盛り上がるし、ロック・イン・ジャパンでは自分のやりたいこととフェスのお客さんを楽しませることを両立するライヴをやっています。音楽の素晴らしさを伝える、ということに集中すればするほど、そういう答えは自然に見つかっていくのだと思います。揚げ足取りの議論をして自分以外の価値観を否定することの先に答えなどないと思います。なぜなら、音楽は自由だからです。
サマーソニックとサザンのライヴの間の木曜日に、ボカロ・クリエイター、じん(自然の敵P)のライヴを観にいった。ニコ動やCDではなくロック・バンド編成の生演奏でじんの曲が聴けるというのがこの「ライヴ」の意義であり、普通ライヴというのはそういうものなのだが、ちょっと違った。もちろんじんやゲスト・ヴォーカリストに対する熱い声援も飛び、演奏にも熱い反応があるのだが、客が何よりも熱く反応するのは「楽曲」なのである。一曲一曲の楽曲に対する愛情、思い入れが半端なくて、曲自体に熱狂的な声援が上がるのだ。素晴らしいことだと思った。通常のロックのライヴとは楽しみ方のバランスが違うのかもしれないが、そんなことは関係なく、いやそれだからこそ素晴らしいと思った。帰るとき、ロビーにはお母さんたちが大勢待っているのが目に入った。お客さんの多くは中学生や小学生なのである。小学生や中学生がじんの『メカクシティデイズ』『メカクシティレコーズ』を通してその一曲一曲の世界観を理解して共感し、ボーカロイドのカルチャーを通してロックを愛して楽しんでいることが素晴らしいことだと思った。音楽はいろんな新しい可能性に向かって、未来に向かって自由に進んでいると思った。
「音楽事情」を語っている間にも、音楽は進んでいく。いま鳴っている音、楽曲、歌声、歌われている言葉が全てだ。それを聴いて何を感じたか、何を見い出したか、それを僕はこれからも語っていきたい。

※激刊!山崎をまとめた単行本(第二弾になります)を、年末あたりに刊行する予定です。買ってください!
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