映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットにより、クイーン再評価熱が尋常ではない高まりをみせている今日この頃。興味深いのは、往年のファンの間でそれが再燃しているのみならず、このバンドの音楽を知らずに育った世代にも広がっていることだ。
実際、この映画に涙した後で「えっ? これって実在のバンドの話なの?」と驚きの声をあげた若者がいるという少々信じ難い話までSNS上を賑わせていたりする。
しかし何より重要なのは、クイーンの音楽と物語には、そうした予備知識や先入観のない人たちをぐいぐいと引き込んでいく力が確実にあるということ。
筆者自身は少年期に彼らの音楽に出会い、新曲が登場するたびに「これまでの曲と全然違う。これってどういうこと?」と驚かされ、置いてきぼりを喰らわされるような感覚を味わいつつ何度も聴きこんでいくうちに深みに嵌まっていく、というプロセスを何度も繰り返してきたくちだが、今回のことを機に改めてクイーンを掘り下げていこうとする人たちにも同じようなことが起こるのではないだろうか。
そうした流れがあるなかでいちばん残念なのは、フレディ・マーキュリーを擁する形でのクイーンの新作というものが、どんなに求められていようと登場し得ないという事実だ。
一方、映画自体も観れば観るほどに発見や小さな“気付き”をもたらしてくれたのと同じように、クイーンの歴史的作品の数々は聴き手の好奇心や探求心を枯れさせることがない。
そして、ブライアン・メイやロジャー・テイラーは、このバンドのユニークさや、ある種の特異さといったものを正確に後世に伝えていくための努力を惜しまない。
アダム・ランバートをフロントマンに据えての、クイーン+アダム・ランバートとしての全25公演に及ぶ新たな北米ツアーも2019年7月から8月にかけて行なわれることがすでに発表されているが、そこで彼らは従来以上に老若男女の入り混じった、過去のどんな時代とも異なったオーディエンスから大反響を獲得することになるに違いない。
ちなみに12月29日付のビルボード誌ロック・チャート(正確にはホット・ロック・ソングス)のトップ50圏内には、4位の“ボヘミアン・ラプソディ”を筆頭に、実に全15曲ものクイーン楽曲がひしめいている。
もちろんここ日本での活況については、改めてこの場で具体的にお伝えするまでもないだろう。この熱は年が明けても冷めることはないはずだし、のちに映画のDVDが登場すれば、さらに持続していくことになるはずだ。
ぶっちゃけ、映画自体が想定以上にヒットしているがために、DVDの発売が当初のプランよりも先送りになっているとの話も聞こえてきている。そして、そうこうしているうちに、クイーン+アダム・ランバート名義での通算3度目となる日本上陸の話など持ち上がることにでもなれば……。
もしかすると2019年のロック界の台風の目は、クイーンということになるかもしれない。そして同時に、そこでクイーンをはじめとするクラシック・ロックへの再評価熱が高まるのみならず、ザ・ストラッツやグレタ・ヴァン・フリートをはじめとする“深い根を持つ新世代”への注目度がいっそう高まっていくことを願いたい。(増田勇一)