チューン・ヤーズ、初の単独来日公演でクリエイティブなバンド・ミュージックの現在地を観た!
2019.02.22 18:42
昨年のフジロックでは、レッド・マーキーが興奮の坩堝と化していたチューン・ヤーズ。『I Can Feel You Creep Into My Private Life』を携えたあのステージは、ステージの規模と音響効果によるところもあったのか力強くハイパーに進化したチューン・ヤーズ、という印象を受けたけれど、渋谷WWW Xで行われた今回のステージは、エキサイティングでありながらも親密な距離感と温度でメリル・ガーバスの表現意図が明瞭に伝わってくる、そんな手応えがあった。
“Gangsta”でさっそくフロアを沸かせて始まったパフォーマンスは、ルーパーを駆使したアフロ・テイストの多重コーラスや、チープなビートで構築されるポリリズム、モジュラー・シンセが彩るサウンドといったふうに、秀逸なアイデアによって補完されたローファイ感が保たれている。フジロックのときは、その音像から逃れがたいトランス感が立ち上っていたのだけれど、今回はステージの距離がそう感じさせるのか、チューン・ヤーズ本来の手作り感がより際立っている。
“Look at Your Hands”や“ABC 123”といった新作曲では、力技のサウンドというよりも、メリルの歌心が等倍でフロアに伝播し、高揚感をもたらすのがいい。ダビーなベースラインの上に折り重なるゴスペル・クワイア、ディレイを噛ませたウクレレの響き、そしてウクレレのボディ内にシャウトを反響させてピックアップに拾わせるなど、自由奔放なアイデアがありのままにマジカルなバンドサウンドへと反映されているのが分かる。
忙しなく動き回ってオーディエンスを熱く扇動していたメリルも、いざ終盤に挨拶となると途端におずおずとしたシャイな口調になったり、「ごめん、音程が分からなくなっちゃった」と茶目っ気を覗かせたりして、なおさらほっこりとさせられる。それでも“Powa”や、まだまだ帰らせないぞ、とばかりにオーディエンスがダブルアンコールを催促してからの凶悪なベースサウンドに支えられた“Free”といった楽曲の熱狂は本物。
あれだけ多彩なリズムをタイトに叩き分けるサポート・ドラマーも凄かった。トーキング・ヘッズやPiLが間違いなくロック史に名を残しているのと同じように、チューン・ヤーズもまた、エクスペリメンタルでありながらも絶対的にチャーミングなバンド・アクトとして現代を生きている。最後まで、ひたすら楽しいままにフィニッシュするライブであった。(小池宏和)