ペール・ウェーヴスの2019年は、The 1975のサポート・アクトとしてアリーナを回る大規模なUKツアーと共に幕を開けた。そして、そんな彼女たちにとって今年最初のヘッドライン・ツアーとなったのが、今回の初単独来日ツアーだ。The 1975とのアリーナ・ツアーで鍛えられた俯瞰の視点とメリハリある構成、そしてデビュー・アルバム『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』リリース後の初来日ということで、よりディープに自分たちの世界を描けるようになった没頭感、その外と内のそれぞれの強化によって昨年のサマソニ初来日から遥かに成長した姿を見せてくれた。
もともと確かな演奏力に裏付けされた骨太なポップ・ロックをやりながら、驚くほど内省的で繊細なインディ・ロックでもあるという二面性がペール・ウェーヴスの面白さだが、今回はその二面性のコントラストがより鮮明に打ち出されたステージだったと思う。「ウィー・アー・ペール・ウェーヴス、フロム・マンチェスター」とお約束の口上と共にまさにマンチェらしい軽やかなダンス・グルーヴを描き出した“Television Romance”や、マドンナのようにステップを踏み、頭を振りながらヘザーが歌い踊る“The Tide”、ギタポのリリシズムとザ・キュアー愛とがさらに過剰にダダ漏れていた“Kiss”や、ゴス・ガールの本領発揮な“My Obsession”、そしてキアラ(Dr)たちのタイトなアンサンブルが牽引する4つ打ちディスコ・ポップの“Red”などそれぞれの曲の個性が立ったパフォーマンスで、1時間弱の短いセットの中できっちり物語の起承転結が編まれていったのだ。
途中、曲間でシーンと静まり返るオーディエンスに向かってヘザーが「ソー・クワイエット…」と呟く一コマもあったけれど、この日のリキッドルームを埋めた満員のオーディエンスはロイヤルなファン揃いで、もちろん盛り上がっていなかったわけではない。この、お互いにシャイでコミュニケーションがぎこちなくなってしまう感じがなんともペール・ウェーヴス(とそのファン)らしかったし、そのぎこちなさが少しずつほぐれ、感応し合っていく様も愛しく、感動的だった。
“Heavenly”以降の後半はまさにステージとフロアの垣根を超えて歓声が巻き起こるビクトリー・ランだ。ホッピングがフロアの後ろの後ろまで広がった最高のダンス・チューン“Came In Close”から、現時点でのペール・ウェーヴスを象徴するナンバー“Noises”へとバトンが渡された本編ラストの幕切れは本当にドラマティックだったし、アンコールを求めるオーディエンスの手拍子の一体感も凄かったが、そうして始まったアンコール自体も文句なしでこの日一番の一体感だった。
また、ペール・ウェーヴスの場合は密室のライブ・ハウスだからこその共謀感覚もたまらないということを今回実感したので、リキッドルームより小さな今日のSPACE ODD公演はさらに特濃な体験になりそうで羨ましいです!(粉川しの)