3月29日にファースト・ソロ『トーク・イズ・チープ』の30周年を記念してリマスタリング再発盤をリリースするキース・リチャーズ。そのキースが、『ロッキング・オン』5月号(4月1日発売)の取材に応えてくれることになった。
インタビューは大鷹俊一氏によるもので、通訳をまかされた筆者の自宅にキースから電話が入るという手はずになり、問題のその日、予定時刻ぴったしに電話が鳴り響く。受話器を取って「ハロー?」と応えると「きみがトシカズかな?」というしゃがれ声。「いや、ぼくはマコトです」と名乗ると、「ああ、そうか、じゃあきみは通訳のやつだな」との一言。
通常、電話取材で最初に接触してくるのはレコード会社かマネジメントの人間なのだが、これはどう考えてもキース自身なのだ。そこで「すると、あなたはキース本人ですか?」と訊くと、相手の答えは「そうだよ」。
実際、そんなことはもうわかっていたし、ビッグ・ネームのアーティストとの取材も慣れているつもりだったのだが、「やっぱりそうなんですね!」と応えた声がひっくり返って裏声みたいになってしまった。畏るべし、キース。
基本的にインタビューは『トーク・イズ・チープ』に特化して、できればザ・ローリング・ストーンズの当時の事情に食いついていければ、というものだった。しかし、キースがどんどんストーンズの事情について語り倒してくれるという展開になって面食らった。当時のソロ・バンドのジ・エクスペンシヴ・ワイノーズについてきちんとしっかり話を聞けば、当時のストーンズの事情についてもぐいぐい話してくれるという、なんかもう前頭葉オーバーヒート的な展開に。
特に衝撃的だったのが、このアルバムがリリースされた1988年当時、ストーンズはもう解散が決定的になったのではないかとも噂されていたのだが、キース自身は解散するかもしれないなどということは「実は感じてなかった」と、当時の心境をいとも簡単にこう片付けてしまったことだ。
それでいて、この時期、ミック・ジャガーがファースト・ソロとセカンド・ソロを立て続けにリリースしていったことについて触れ、そのアルバムの内容の印象については「一切話したくない」と一蹴してみせてしまう。しかし、その反面、自分が同様にソロ作品を作ったのなら、自分だったら「傑作にしてやると思った」とかなり意味深な発言。実際、キースのこのアルバムは傑作でもあるので、キースすごいですとしか言いようがない。
いずれにしても、自分のソロについて語り出すと、その当時のストーンズの歴史の話になってしまうというところが、やっぱりすごいなとあらためて思い知らされた。大鷹氏が確認したがったチャック・ベリーのピアニスト、ジョニー・ジョンソンへのこだわりから浮かび上がってくるイアン・スチュワートの死など、非常に大きな転換点にあったストーンズのこの時期をひもとく語録にもなっているので、ぜひインタビューをご確認ください。(高見展)