至上の美しさと激しさで、壮大なカタルシスへと誘うアンサンブル――ザ・シネマティック・オーケストラの大阪公演をレポート!
2019.04.19 22:30
12年ぶりのオリジナル・アルバムにしてさらなる躍進を刻みつけた『トゥ・ビリーヴ』を発表したばかりのザ・シネマティック・オーケストラ(以下TCO)だが、来日公演は「SonarSound Tokyo」以来7年半ぶり、単独としてはじつに11年ぶりとなる。東京公演はソールド・アウトだというし、この日僕が行った大阪公演も大入りで、期待度の高さが窺える。彼らの音楽がライブという場でこそ完成されるものであることを、そこに集ったオーディエンスはよくわかっていただろう。
サポート・アクトの原 摩利彦が静謐ななかに鋭利さを潜ませるアンビエントですっかりムードを作り上げたあと、電子音のイントロとともについにTCOが登場する。オープニングは『トゥ・ビリーヴ』収録の“Lessons”。鍵盤のリフに疾走するドラムが寄り添い、叙情的で映像喚起的なアンサンブルを立ち上げていく。その圧倒的なダイナミズム! 『トゥ・ビリーヴ』は、彼らとしてはより「歌」にフォーカスしたアルバムだっと言えるが、ライブの序盤ではむしろTCOの初期からのトレードマークだった雄大かつ繊細なインスト・ナンバーでオーディエンスを一気に引きこんだ。基本は6人編成で、何はともあれドラムとベースのボトムがしっかりと大きな音量でバンドを支えるので非常にパワフル。その上で、サックスや鍵盤による情熱的でメランコリックなメロディが奏でられ、また、サンプリングなどでアクセントを作っていく。
最新作からのナンバーを中心にして、20年に及ぶ彼らのキャリアの代表曲を挟んでいく構成。とくに初期のナンバー、たとえば“Channel 1 Suite”などはジャズ色が濃厚で、TCOの出自と現在がしっかりと地続きであることを実感させられた。いまでこそクラブ・ジャズ以降の文脈でジャンル横断的なサウンドを標榜するのは当たり前になっているが、彼らはその先駆的な存在だったと言える。ジャズの素養はもちろんあるが、エレクトロニック・ミュージックの手法やアイデアが随所に入りこむことで、よりモダンで実験的なものとして立ち現れているのだ。この日のライブ中でも、トム・チャントがサックスで吹くフレーズを即興でループさせ、そのままバンド・アンサンブルが入ってくるシーンなどは相当にスリリングなものだった。だがもちろん、小難しい演奏に腕を組んで観るようなものではまったくなく、演奏それ自体の熱量で高揚を生んでいく。着席のホールだったことが少しもったいなく感じられたほどだ。
いっぽうで、新作からのボーカル・トラック、なかでも“Zero One/This Fantasy”などは抑制した演奏で濃密なメランコリーを生み出していく。物悲しいメロディーがしかし、柔らかくバンドと重なることで感じれる不思議な安らぎ。『トゥ・ビリーヴ』がTCOにとって過去の成功をたんになぞるのではなく、その表現を深化させた作品だったことがよく伝わってくる。本編ラストはアルバムでもクロージングを飾った“A Promise”。情感に満ちた女性ボーカルが幽玄なアンサンブルに迎えられたかと思うと、次第にバンドは激しさを増し、遥かな高みへと上りつめていく。まったく美しく、ドラマティックな「オーケストラ」だ。
アンコールではその日のすべてを総括するような気迫でもって、見事な大団円を迎えた。スタンディング・オベーションで応えるオーディエンス。TCOの健在ぶりを見事に示す内容で、彼らの一線への帰還を証明するものだったと思う。10年後とは言わず、またすぐにでも彼らの音楽が作り上げる壮大なカタルシスを味わいたいものだ。(木津毅)