前回同様、入場時に3Dメガネを渡されただけで特別な思いがわき起こるが、ものすごい行列のグッズ売り場を中心に異様なまでの高揚感もロビーから渦巻いている。いつでも、どんなシチュエーションでも<スペシャル感>が産み出されるのがクラフトワークの不思議なところ。さらに今回の会場には女性も多く、何かの変化も感じる。
13年の前回はオリジナル・アルバムを日替わりで演奏する変則だったが、今回は嬉しいベスト的な構成。約5分ほど遅れて4人が登壇し“Numbers”、“Computer World”、“Computer Love”と『コンピュータ・ワールド』の世界がくり広げられ、粒子状となった数字が立体的に迫るなど、すんなりと3Dワールドに溶け込むが、とくに素晴らしいのは計算され尽くしたサラウンドと低音部の充実ぶりで、これは後半になるとさらに迫力を増し、音圧をも完璧にコントロールしてみごとだった。3Dばかり語られるが、音響面ももっと注目されるべきだろう。
そして人気ナンバー“The Man Machine”から『人間解体』パートへ移り、文字と幾何学模様が作り出す立体感、奥行き感が抜群で、まさに3Dだし、操縦室からの画像で始まる“Spacelab”では、どこかレトロスペクティブな宇宙航行を描き出しながら最後はお約束通り、Bunkamuraに着地して盛り上がりがすごい。さらに古いフィルムを使った“The Model”や“Metropolis”と同アルバムから進み、グループの運命を変えた“Autobahn”へとつながるが、テンポを落とした前半部からだんだんとスピードが上がる流れと左右からの音で包み込む構成が効果的だ。
続くのは、日本では特別な意味を持つ“Radioactivity”で、他の曲にはない荒々しいサウンドであり、<いますぐやめろ>の日本語の歌には怒りが含まれていた。
そんな重い高揚感が“Electric Café”でひと息。続いて『ツール・ド・フランス』パートへと突入し“Tour De France”、“Tour De France 03 XL”とスピード感溢れる世界がくり広げられ、さらに“Trans-Europe Express”では漆黒の弾丸にも似たTEEが走り回る画像に快感と恐怖感が混ざり合った感覚に包まれるが、ここらあたりはクラフトワークならでは。そしてこれまた大人気曲の“The Robots”、そして『ツール・ド・フランス』からの“Aero Dynamik”と続き、ここでいったん終了。
アンコールの声に登場し飛び出したのが日本では特別なナンバー“Dentaku”で、一気にテクノ・ポップの時代にワープさせられるが、そんな感傷を寸断するように“Planet Of Visions”、そして『エレクトリック・カフェ』からの“Boing Boom Tschak-Musique Non Stop”を披露し、音が鳴り響くなか、一人ずつフェイドアウトし、最後に唯一のオリジナル・メンバー、ラルフ・ヒュッターが深々と頭を下げて消えていった。
まさにベスト・オブ・ベストであり、完成度の高い流れは、あらゆるファン層をも満足させてくれたはずだし、懐かしくはあっても、決して古びることのないクラフトワーク・ワールドを改めて確認した最高の夜だった。(大鷹俊一)