マーヴィン・ゲイ生誕80周年、お蔵入りしていたアルバムがついにリリース! 歴史のベールに隠れたエネルギーに辿り着くまで
2019.05.06 12:00
マーヴィン・ゲイの生誕80周年/モータウン設立60周年を記念してリリースされた『ユーアー・ザ・マン』(日本盤CDは5月8日)は、本来なら1971年の名盤『What’s Goin’ On』に続いてリリースされるはずだった作品だが、アルバム単位では長らくお蔵入りとなっていた(シングルやコンピレーション、リイシュー盤ボーナストラックなどでは以前に楽曲が発表されている)。
プロデュースの主導権を握り、“What’s Goin’ On”、“Mercy Mercy Me (The Ecology)”、“Inner City Blues (Make Me Wanna Hollaer)”とヒットを飛ばした直後だったが、楽曲に込めたポリティカルな主張によりレーベル側と揉めるなど、当時は時代の転換点で難しいところがあったのかもしれない。それまでのモータウンは、ソングライティングと演奏、製作などのプロフェッショナルな分業が主流であり、その方針によってヒットを量産してきた。
しかし2019年現在から見れば、良質なビッグバンド演奏やジャズ/ファンクをふんだんに配したサントラ『Trouble Man』(1972)や、官能と解放のヒット作『Let’s Get It On』(1973)へと繋がるこの時期のマーヴィンのクリエイティビティが重要なのは誰にでも分かる話で、『ユーアー・ザ・マン』が晴れて日の目を見たのは喜ばしい。序盤“The World is Rated X (Alternate Mix)”の緊迫感は強烈だ。
また、当時の音源をそのまま用いるのではなく、サラーム・レミがコンテンポラリーなミックスを施した音源が含まれているのも、アニバーサリー・イヤーの今こそ触れるべき作品としての工夫だろう。“My Last Chance (Salaam Remi Remix)”の甘くサイケな音像とグルーヴがいい。
それにしても、マーヴィンとモータウンの関係が興味深い形で表出している気がするのが、この時期にモータウンに参加したシンガーソングライター/プロデューサー=ウィリー・ハッチ(ジャクソン5やマイケル・ジャクソンの楽曲、後にはブラックムービー『The Mack』『Foxy Brown』サントラなどを手がける)の存在だ。“I’m Gonna Give You Respect”、“Try It, You’ll Like It”、“You’re that Special One”、“We Can Make It Baby”で、その華々しくチャーミングなソウルのソングライティングを炸裂させている。
時代に警鐘を鳴らし人々を鼓舞するパーソナルな姿勢を打ち出していたマーヴィンと、当時の新世代サウンド・メイカーであるハッチが、お蔵入りになったとは言え歩調を合わせて時代を衝き動かそうとしていた事実。歴史のベールの裏側で渦巻いていたそのエネルギーに、ロマンを感じて止まないのである。(小池宏和)