前作『ビアボングズ & ベントレーズ』から1年半ぶりとなる新作『ハリウッズ・ブリーディング』を遂にリリースしたポスト・マローン。
ファースト『Stoney』の大ブレイクから『ビアボングズ & ベントレーズ』へと世界的な旋風を巻き起こしただけに、この新作の行方はかなり注目されるところだったが、ポスト・マローンの殺人的なフックを散りばめた節回しとゆったりとしたグルーヴでうねりまくるトラップ・ビートと、その魅力全開の内容となっているだけでなく、自身が今持つ勢いを余すところなく注ぎ込んだ完璧な仕上がりになっている。
オープナーとなるタイトル・ナンバー“ハリウッズ・ブリーディング”はまさにそんな期待に応えながら、ポスト・マローンならではのビートと節回しを堪能できるもので、ファンとしてはポストの帰還を純粋に喜ぶ内容となっている。
歌詞的には「血まみれのハリウッド」という意味で、ハリウッドには危険がいろんな形で潜んでいるという意味合いだ。それほど危険なハリウッドにそれでもどうしても居ついてしまう、そんな自分たちの習性を虚無的に綴るものになっているが、一方である相手との関係がまったく不毛なものに終わらざるをえないことも同時に歌い込んだものになっている。
ポストの楽曲についてはよく中身がないと指摘されるが、こうした虚無感をこれまでも彼はずっと綴ってきていて、それこそがこのアーティストの身上なのだ。
どうにもならない出口のない状況と心境をけだるい気分として見事にヒップホップとして形にし、さらにそれをアンセム化してみせているところが最大の魅力にほかならない。
今作では、この虚無感と関係性の不毛さがより際立っているのが特徴で、それはポスト・マローン自身のこれまでの成功によって、プロダクションや自身の経験を含めてすべてのスケールが格段に巨大化しているからだ。
その結果、ポスト・マローンの独特の、彷徨感と寂寥感が募るサウンドと節回しがよりいっそう魅力的になっているのだ。
先行シングルとして、すでに発表されていた“グッバイズ”、“サークルズ”などはその最たるもので、特に“サークルズ”や映画『スパイダーマン: スパイダーバース』のサウンドトラック・アルバムにも収録された“サンフラワー”などは、この情感をとてつもなく強力にかもしだす楽曲として仕上げられ、間違いなくアルバムの聴きどころとなっている。
そして、アルバム中最大の力業はロック・バラードとトラップ・ビートをひとつのグルーヴに乗せてオジー・オズボーンが客演する“テイク・ホワット・ユー・ウォント”で、しかもさらにトラヴィス・スコットまで客演させるところが、まさに今のポストの勢いをよく物語っている。
楽曲的に最も刺激的なのは、ポップ・チューンでありながらリズムのアレンジがどこまでも攻撃的な“ステアリング・アット・ザ・サン”だろう。
この曲におけるポストの節回しはかなり新鮮なものになっていて、さらにシザの客演パフォーマンスも素晴らしく、ある意味でこれまでにはなかった新機軸となっている。
またインターネットがいかに自分たちのライフスタイルをろくでもないものにしているかとぶち上げる“インターネット”が、カニエ・ウェストとの共作曲だったりする采配にもただただ感服する。
そうした意味で今現在の自身の勢いをよく見極めつつ、さらに自身の魅力を見誤らなかったという意味で、見事にファーストとセカンドの成功を乗り越えた作品になっていて、そこがなによりも頼もしいのだ。(高見展)