激しくぶつかり合う構築美と即興、スリルと興奮に満ちたブラック・ミディのライブを観た!

激しくぶつかり合う構築美と即興、スリルと興奮に満ちたブラック・ミディのライブを観た!

こんなものは初めて観た。

というのが、ブラック・ミディの初来日公演を体験した自分の率直な気持ちだ。それはオーディエンスだけでなく、バンド自身もそうだったのではないだろうか。即興を積極的に導入した彼らのスリリングな演奏は、ライブがそもそも一回性のものであるということを強く感じさせるものだった。僕が観たのは大阪公演だが、東京も京都もきっとまったく違った内容だっただろう。ブラック・ミディは「いま、このとき」にバンドが起こすマジックを伸び伸びと体現してみせた。


とにかくアルバムの音源と全然違う。“953”の印象的なリフが聞こえてくれば「これはあの曲だな」とわかる瞬間もあるのだが、それはいとも簡単にメンバー自身の演奏によって姿を変えていく。マス・ロックの理知的な構築がありつつも、それがプログレとハードコア譲りのアグレッシブなプレイによって内側から食い破られていく。初期衝動と言うにはあまりにも卓越した実験精神に貫かれているし、かと言って成熟と言うには獰猛すぎる。いったい何なんだこれは、と思いながら変幻する音の渦に飲まれていると、次々に展開が変わっていく。曲の隙間もMCもなし。ただ、闊達で予測不能な演奏ばかりがある。

彼らの特異さが際立っていたのは、たとえば“Ducter”のようなナンバーだった。そもそもマス・ロック的な反復が融解してハードコア風の展開になる曲だが、ライブではその振り幅が過剰に強調される。ブラック・ミディの音楽は様々な要素から成り立っているが、それは順列組み合わせの妙味ではなくて、偶然に起こる変異を彼ら自身が楽しんでいるのである。そして、まだわたしたちが聞いたことのない何かがその場その場で生み出されていく。お決まりのアンコールもなし。嵐のような一時間強だった。

あらためて、あのスリルに満ちたデビュー・アルバム『Schlagenheim』がほんの通過点でしかなかったことがわかった。ブラック・ミディはその瞬間その瞬間の冒険を重ね続け、これからも恐ろしいスピードで進化していくだろう。(木津毅)

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