ヒップホップ・ダークマター帰還! パブリック・エネミー、奴隷解放記念日サプライズ新曲“State Of The Union (STFU) featuring DJ PREMIER”徹底解剖!
2020.07.03 13:35
Black Lives Matter運動の最中ということもあって、今年6月19日のジューン・ティーンス(米奴隷解放記念日)に合わせるように、多くのアーティストが印象深い楽曲をリリースした。
中村明美さんのブログで取り上げていたビヨンセの“Black Parade”、アリシア・キーズの“Perfect Way To Die”、アンダーソン・パークの“Lockdown”、H.E.Rの“I Can’t Breathe”など、それぞれに人々のエネルギーをポジティブな方向に向ける意志が込められていたり、命の重さを切々と伝える歌であったり、自分たちの置かれる混乱した状況を描写したりと、アプローチもさまざまだ。
そんな中で、パブリック・エネミーもサプライズの新曲“State Of The Union (STFU) featuring DJ PREMIER ”をリリースした。State of Union(一般教書演説)のタイトルを冠しているので、トランプ大統領が今年2月に行った演説の後に制作が進められた楽曲なのかもしれない。
プリモことDJプレミアの構築するソリッドなビートに乗せて、再選に意気込むトランプを断固として拒否する、そんな痛烈なナンバーに仕上げられている。
驚きだったのは、このところPEの一員として足並みの揃わなかったフレイヴァー・フレイヴ(一時は解雇されたというジョークが出回り、3月にリリースされたエネミー・レディオ名義のアルバム『Loud Is Not Enough』にも不参加だった)が、《Stete of the Union, shut the fuck up》とアジるフックの部分をがっつりとリードしていることだ。
そもそもは、バーニー・サンダース候補支持についてメンバー間で齟齬が生まれていたらしいのだが、反トランプの姿勢は共通しているのだろう。ミュージックビデオの概要欄に記された「トランプが去るべきってことは分かってる。このビデオを、真夜中にこっそりぶっ放すぜ。PEace」というコメントも、チャック・Dとフレイヴの連名である。
新型コロナウイルスの影響もあって米国民の5人に1人が失業する混乱に陥り、オバマ政権の推し進めていた医療制度改革などの社会保障を見直したことも、ここにきて失業した無保険者を圧迫している。
何より、トランプによるツイッター上でのパフォーマンスはひどく強権的で、多くの人々は不信感を募らせてきた。つい先頃にも、「ホワイトパワー!」と叫ぶ支持者集会の動画をリツイート(後に削除)してしまうというお粗末な出来事があったばかりだ。だから、ファイト・ザ ・パワーだって30年前から言ってる。
PEの音楽はいつでも過激かつ煽動的だが、難しい課題が幾重にも折り重なった今日にこそ、「投票」という具体的かつ合理的なアクションに結び付け、ひいては人々の不安や不満をガス抜きする、そんな懐の深い楽曲を放ってみせた点が素晴らしい。
そこには確かにフレイヴァー・フレイヴの声が聴こえている。それにしても、なぜだろうな。あの得体の知れないフレイヴがいないと、締まらない気がするのは。永遠にミステリアスで、だからこそ未知数のエネルギーを振りまく、ヒップホップ・ダークマターの帰還である。(小池宏和)