時代や土地の呪縛を超える歌のエナジー――スプリングスティーンの名曲とともに描かれる青春映画『カセットテープ・ダイアリーズ』、本日より全国ロードショー!

時代や土地の呪縛を超える歌のエナジー――スプリングスティーンの名曲とともに描かれる青春映画『カセットテープ・ダイアリーズ』、本日より全国ロードショー!

『カセットテープ・ダイアリーズ』はブルース・スプリングスティーンその人が出ることはない「ブルース・スプリングスティーンのミュージカル映画」で、あるひとりのファンの少年を描いただけのものだけど、だからこそ、スプリングスティーンの歌が持つ力を掲げている。スプリングスティーンが、いったい誰に向かって歌ってきたかを伝える作品なのだ。

映画『カセットテープ・ダイアリーズ』予告編
https://youtu.be/99u8FYEXurY

ときは1987年、主人公はイギリスのルートンの小さな町に住むパキスタン系の少年ジャベド。そう、舞台はスプリングスティーンがとっくに有名になったあとの時代で、しかもアメリカですらない。

ジャベドは冒頭、トレンド好きな友人に教えられたペット・ショップ・ボーイズを聴いていて、「これからはシンセ・ポップだぜ」なんて教えられるのだけど、ニューウェーブもとっくに過ぎた時代の話である。

要はスプリングスティーンなんてものはよその国の違う世代が聴くものだったはずなのだけれど、ジャベドはスプリングスティーンに出会い、そして猛烈に彼の歌の虜になっていく。

それはジャベドが移民であることが関係している。彼は日常的に差別を受けており、さらにサッチャー政権下の不況のなかで父親が失業してしまう。未来がまったく見えない16歳という設定は青春映画でよくあるように見えるかもしれないが、移民の少年に対する社会の風当たりはマジョリティのそれと違う。

あるときジャベドは、同じように差別を受けているムスリム系の同級生ループスに『ボーン・イン・ザ・USA』と『闇に吠える街』のカセットテープを渡され、そのパワフルな歌に夢中になる。

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スプリングスティーンは社会から疎外された者の叫びを愚直なまでにその歌にしたためてきたが、それが時代も土地も超えてひとりの少年の心に刺さるのである。

周りのクラスメイトからは「オヤジの音楽じゃないか」と言われるのだけれど、スプリングスティーンがトレンドとは関係ないところで強烈な普遍性を持ち続けてきたことをよく表している。ジャベドがはじめてスプリングスティーンを聴くシーンでは歌詞がスクリーンに大写しになるが、それだけそのメッセージは社会に虐げられた少年にとってリアリティを持つものだったのだ。

原作は、イギリスの左派系新聞『ガーディアン』でジャーナリストとして活躍するサルフラズ・マンズールの回顧録で、当時のイギリスがいかに労働者や移民にとって過酷だったかがうまく織りこまれている。

スプリングスティーンが描き続けた労働者たちの苦境が、当時のイギリスと見事にシンクロしたのである。マンズール自身が脚本を手がけ、監督は『ベッカムに恋して』で知られるインド系のグリンダ・チャーダが務めているが、イギリスにおける移民が自分の目線で綴る物語となっている。

時代や土地の呪縛を超える歌のエナジー――スプリングスティーンの名曲とともに描かれる青春映画『カセットテープ・ダイアリーズ』、本日より全国ロードショー! - ©BIF Bruce Limited 2019©BIF Bruce Limited 2019

全体としては王道の青春映画で、ジャベドは自分を押さえつける父親に反発したり、恋をしたり、自分の夢を見つけたりして成長していく。この辺りは日本の観客にも共感できるところだろう。

そして、時代も場所も関係なくスプリングスティーンの歌に共振せずにはいられなかったひとりの若者の姿は、きっと島国でスプリングスティーンの歌に惹かれるリスナーひとりひとりと似ているところがあるだろう。

スプリングスティーンの歌にノックアウトされたかつての10代はもちろんのこと、スプリングスティーンなんか聴いたこともない、だけどこの社会に怒りや疎外感を覚える人にこそ観てほしい作品だ。(木津毅)

映画『カセットテープ・ダイアリーズ』は本日よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国ロードショー。
http://cassette-diary.jp/
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