超党派&超世代のメッセージを叩きつけた、パブリック・エネミーの最新作『ホワット・ユー・ゴナ・ドゥ・ホエン・ザ・グリッド・ゴーズ・ダウン?』を徹底解剖!
2020.10.14 13:15
ここまで派手にぶちかますとは、正直予想だにしなかった。パブリック・エネミーによる通算15作目、しかもサントラ『He Got Game』(1998)以来22年ぶりに古巣デフ・ジャムに復帰してのアルバム『ホワット・ユー・ゴナ・ドゥ・ホエン・ザ・グリッド・ゴーズ・ダウン?』の話だ。
反トランプもBLMもひっくるめて問題提起し、本気で怒るほどにエンタテインメント性が増す。正しくプロレス的という意味においても、完璧にパブリック・エネミーなアルバムである。10月23日には日本盤CDがリリースされる。
そもそも「回線が切れたらどうすんだい?」というタイトルからして、インターネットに依存している現代人からすれば頓珍漢スレスレの発想だろう。
しかし、マイクとターンテーブル、何ならブームボックス一丁抱えて街中に飛び出す世代の彼らは、そんな仮定から話を切り出す。コロナ禍や差別でしっちゃかめっちゃかの今日がさらに悪化するならば、まさにインターネット回線が不通になってしまうような絶望的な未来を思い描くはずだ。時代を跨いだPEの闘いは、そんな視界から始まるのである。
のっけから、引退間近かと思われたPファンクの首領を担ぎ出し、プロフェッツ・オブ・レイジ組(チャックDとB-リアル)の共闘も“Grid featuring. Cypress Hill and George Clinton”に生きてくる。
ビースティ・ボーイズの2人による愉快なリップサービスから始まる“Public Enemy Number Won featuring Mike D, Ad-Rock & RUN-DMC”は、まるでご祝儀付きのデフ・ジャム同窓会だ。
先行曲“State of the Union (STFU) featuring DJ Premier”だけでなく、“Toxic”でもオールドスクールなマナーできっちりとトランプの頭を押さえる。フレイヴァー・フレイヴが今をときめくNBAスター=ヤニス・アデトクンボの名を出せば、チャックは10年以上前に引退したかつてのブロック王=ディケンベ・ムトンボを出してやり返すあたり、いかにもオッサンのNBAファンらしい掛け合いで笑える。
時代錯誤感も厭わず着火する“Yesterday Man featuring Daddy-O”。こちらも黙っていないぞ、とばかりに顔を覗かせる“Smash The Crowd featuring Ice-T & PMD”のゲストたちも、さすがロックなトラックに嵌り役だ。
そしてアルバム終盤は、時代の移り変わりの中で現世を去ったヒップホップ・アーティストたちを追悼し功績を称える“Rest In Beats featuring The Impossebulls”や、“R.I.P. Blackat”(フレイヴの独白にグッとくる)が並び、最後は率直なブラック&ウーマン・エンパワーメントのスポークンワード“Closing: I Am Black”で終わる。
どれもこれもが、「オッサンにも言いたいこと言わせろ」という居直った響き方をしていて、今日のヒップホップに擦り寄るような素振りは微塵もない。それが清々しくパワフルだ。
アルバム・タイトルの仮定形からして飛躍しているのだから、最後までその温度感で受け止めるべきだろう。しかし、それでも素晴らしいと思えるのは“Fight The Power Remix 2020 featuring Nas, Rapsody, Black Thought, Jahi, YG & Questlove”の存在だ。
PEの往年の名チューンを、NASやブラック・ソートといった一流リリシストがキャッチし、ラプソディーやジャヒー(a.k.a. PE 2.0)らが継承し、現在30歳でこのアルバムの中では若手と言えるYGにまでラップのバトンを繋いでいる。
時代錯誤だろうが、小うるさいオッサンだろうが、受け継がれる反骨のスピリットこそがこのアルバムの真ん中にドン、と置かれるべき主題なのである。党派や出身や民族や世代の格差を明らかにし、それらを越えて受け継がれるものを明らかにするために、PEは敢えて滑稽なほどのジェネレーション・ギャップを打ち出したのではないか。
音楽で世界は変わらない。変わるのは、たった一人の人間だけだ。PEの1stと2ndアルバムを聴きながら、神奈川県で最も標高の高い丘の上の高校に、毎朝ママチャリで駆け上がっていた。一度も、自転車を降りて押したことはない。
バカみたいに些細な話だが、異様な熱量でまくしたてるチャックと珍妙なフレイヴの声に、聴いたこともないほど攻撃的なPEのビートに、背中を押して貰っていたのだと、30年後の今も本気で思っている。(小池宏和)