Z世代のロックンロール・スターに駆け上がったヤングブラッドは、US勢と連帯しながら世界を獲るのか? 最新作『ウィアード!』に溢れる巨大スケールの説得力

Z世代のロックンロール・スターに駆け上がったヤングブラッドは、US勢と連帯しながら世界を獲るのか? 最新作『ウィアード!』に溢れる巨大スケールの説得力

3月に予定されていた待望の初来日公演がキャンセルになってしまったヤングブラッド。アルバムの日本盤もまだリリースされていない彼と日本のファンとの関係が、この初来日で本格的に始まることを期待していただけに残念極まりないのだが、いずれにしてもヤングブラッドは、私たちが一刻も早く必ず出会っておくべき逸材であることに疑いはない。

「Z世代のポスター・ボーイ」とメディアに評されているように、彼自らが「21世紀のロックンロール・スターになりたい」と嘯くように、ヤングブラッドはロックがスターの輝きを失って久しいZ世代のど真ん中でひとり、その空白を埋める使命と向き合っているあまりにも希少な才能なのだ。

ヤングブラッドことドミニク・ハリソンはイングランド中北部のドンカスター出身、1997年生まれの22歳。ロウティーンの頃にアークティック・モンキーズに出会って衝撃を受けたというバックグラウンドも含めて、典型的なテン年代育ちのUKキッズだと言っていいだろう。

インタビュー映像などを観るかぎり北部訛り全開の彼だが、ドンカスターからほど近いシェフィールド出身のアークティック・モンキーズの曲を初めて聴いた時、「これこそが俺の見ているものだ、北部の俺たちの風景だ」とシンパシーが炸裂したと語っている。

ちなみにヤングブラッドは自分の人生を変えた5枚のアルバムとしてアークティック・モンキーズの『Beneath the Boardwalk』、エミネムの『ザ・マーシャル・マザーズLP』、ザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』、カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』、そしてザ・ビートルズの『リヴォルヴァー』の名前を挙げている。

このリストからはUKロックのオーセンティックなリリシズムや思春期性と、ヒップホップ、ラップの強力な武器としての「言葉」、そのふたつが彼の表現の出発点にあったことが伺える。

2017年にデビュー・シングル“King Charles”をリリース。ビッグ・ビートと形容したくなるようなやけくそ気味にアッパーかつパンキッシュなメロディに乗せ、若者を苦しめる学生ローンや金持ち優遇の税制策を批判し、〈21歳以下の俺たちにとって生きづらい時代だ〉と嘆く同曲によって、ヤングブラッドは真っ先に自分の使命を明らかにした。

それは自分たちの世代が置かれたアンフェアな状況への怒りと、上の世代への憎悪にも似た拒絶反応の代弁者になるということだった。彼を含むZ世代は、大人たちの負の遺産を押し付けられ、「ツケを払わされる」と感じている世代だと言われるが、若者の将来の可能性を奪うEU離脱が、いわゆるシルバー・デモクラシーによって実現してしまったように、ブーマー世代の飽くなき欲望と無策によって地球環境が破壊されていくように、ヤングブラッドが代弁するZ世代のフラストレーションには、実際的な根拠がある。

そしてそのフラストレーションは、ユース・カルチャーの本丸として自分が復権させると決意したロック、パンクこそが担うべきなのだと、デビューの瞬間からヤングブラッドは確信していたアーティストだった。

Z世代のロックンロール・スターに駆け上がったヤングブラッドは、US勢と連帯しながら世界を獲るのか? 最新作『ウィアード!』に溢れる巨大スケールの説得力

翌2018年には待望のデビュー・アルバム『21st Century Liability』をリリース。〈俺の望みは誰かを殺すこと〉と物騒なことを歌う“Kill Somebody”や、あまりにもカジュアルに横行している少女たちへの性的暴行をテーマにした“Polygraph Eyes”、自分の気分を支配するドラッグ、極度の興奮状態とその裏返しの鬱、不眠症など歌詞のモチーフが多岐にわたる同作は、ヤングブラッドの世代が抱える問題と病理の縮図のような作品だったと言っていい。

ちなみに同作中でもとりわけポリティカルな“Machine Gun (F**k the NRA)”は、全米最大規模のロビー団体として知られる全米ライフル協会(NRA)を槍玉に挙げて銃社会のアメリカを告発したナンバー。


〈あいつらは俺の精神状態がどうこう言うけど、俺のことなんて本当はどうでもいいわけ。お前らが勝手に俺たちを有名にしたんだから〉と歌う同曲の肝は、銃乱射事件が即容疑者のメンタルの問題にすり替えられ(もしくは人種・宗教のフォビアに回収され)、誰でも銃が買える社会構造の問題を覆い隠そうとする権力の欺瞞を事件の当事者の目線で皮肉っている点で、一聴して直情的でセンセーショナルなようでいて、こうした社会問題に対する俯瞰も兼ね備えた彼の歌詞には、まさにクラッシュやエミネムの薫陶を感じる。

そんなヤングブラッドを一躍ワールドワイドな存在に押し上げたのが、ホールジーとの共作曲“11 Minutes”だ。同ナンバー以降、彼はマシン・ガン・ケリー(“I Think I'm OKAY”)やマシュメロ、ブラックベアー(“Tongue Tied”)ら、USポップ&ロック・アクトと積極的に交わっていくことに。英北部育ちのティーンの怒りや鬱屈の等身大の表明として始まった彼のロック・サウンドは、こうしてより今日的なモダン・ロックへとアップデートされることになった。

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昨年10月にはミニ・アルバム『the underrated youth』をリリース。同作のヒットもまた、前述のグローバルに拓けた可能性の産物だろう。イマジン・ドラゴンズのダン・レイノルズとのコラボで大ヒットした“Original Me”で〈俺は独創的な負け犬(I’m the original loser)〉と誇らしげに歌うように、抑圧的な親に虐げられた少年を描いた“Parents”で〈俺たちはむちゃくちゃな国に生まれたんだよ〉と歌うように、本作に至って彼はより一層の自覚を強めている。


その覚醒を象徴するかのように、精神病棟の患者を想起させる白い拘束着姿で縮こまっていた『21st Century Liability』から一転、本作のジャケットの彼はキッズのレジスタンスを率いるリーダーとして、大きな旗を掲げているのだ。

ヤングブラッドを語る上でもうひとつ重要なのは、彼がボディコンシャスなワンピースからミニスカートまで(「リトル・ブラック・ドレスが一番好き」だそう)、クロスドレッシングを自由に実践しているアーティストである点だ。

彼同様にスカートやドレスを常用しているThe 1975のマシュー・ヒーリーや、繊細なレース・シャツを着こなすハリー・スタイルズ、体のラインが出ない(=女性性に縛られない)ダボダボのファッションを好むビリー・アイリッシュの例を挙げるまでもなく、彼ら新時代のアイコンがクロスドレッシングによって放つメッセージは、「自分が何者かを決めるのは、自分だけの権利だ」という、ごくシンプルにして普遍的なものだ。

セカンド・アルバム『ウィアード!』を11月13日にリリースすることを発表したヤングブラッド。最新シングルの“Weird!”で、キャッチーなエレクトロ・ロックに乗せて彼はこう歌っている。〈俺の手をしっかり握ってくれ。俺たちは奇妙な時代に生きている。でもブッ壊れないでくれよ、大丈夫だから〉と。同曲に限らず、ヤングブラッドの歌詞は主語が往々にして「俺たち」になる。


つまり、彼は「自分が何者かを決めるのは、自分だけの権利だ」という究極の個人主義の側面から同世代をエンパワメントするのと同時に、その不揃いの個の連帯を信じるナイーヴな理想主義者でもあるのだ。信じられるものが少ないこの時代に、いや、そんな時代だからこそ、がむしゃらに手を伸ばしてくる彼のロックンロールは歪な輝きを放っているのかもしれない。(粉川しの)

※この記事は6月5日発売ロッキング・オン7月号に掲載されたものを、一部加筆し掲載したものです。



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