約3年ぶりの新作である。だが本作は実はパブリック・エネミー名義ではなく、「エネミー・レディオ」名義のアルバムである。パブリック・エネミーはかつてなくバンドの基盤が揺らぎ、存立が危うい状況にあると思う。
2017年にチャック・Dらはトム・モレロとのプロフェッツ・オブ・レイジでアルバムを出しているが、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの再結成に伴ってプロフェッツ~は活動停止、PEでの活動に戻ってきた。正直な話、プロフェッツの終わり方は少々誠実さを欠き後味は良くなかった。自分たちがレイジ~ザックの代用品に過ぎなかったと表明しているようでもあった。
さらに本作リリース前後のフレイヴァー・フレイヴの解雇騒動だ。後に話題作りのためのフェイク・ニュースだとチャックが明かしたが、フレイヴァーは「オレはお前のデマの一部じゃない」と発言。新型コロナ渦が深刻さを増す世界で、エイプリル・フールのジョークより大切なことがある、と言っている。真相は不明だが、彼らが迷走気味であることは否定できない。
エネミー・レディオはチャックと、PE/プロフェッツのメンバーでもあるDJロードと、オークランドのラッパー、Jahiによるユニットだ。フレイヴァーも1曲で参加しているが、実質的にはチャックのソロに近い。
マイクとターンテーブルという、ヒップホップの原点に戻るというのがユニットのポリシー。確かにオールドスクールなヒップホップの基本が貫かれ、骨太なビートとノイジーな上モノ、チャックの力強いラップは、さすがと思わせる。今のヒップホップにはない無骨でザラザラとした手触りは彼らならでは。だがそこにあるべきフレイヴァーの声が(1曲を除いて)ないのが、画竜点睛を欠く。PEはどこへ行くのか? (小野島大)
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