パール・ジャム、ライブ・デビュー30周年を記念した圧巻のライブ配信を敢行。5.1chサラウンドと11台のHDカメラが捉えた驚異のグルーヴを堪能した!

パール・ジャム、ライブ・デビュー30周年を記念した圧巻のライブ配信を敢行。5.1chサラウンドと11台のHDカメラが捉えた驚異のグルーヴを堪能した!

ライブEP『MTV Unplugged』を初CD化&デジタルリリースしたばかりのパール・ジャムが、ライブ・デビュー30周年を記念し、ウェブキャスト・チャンネル「nugs.tv」を通じて米現地時間の10月22日から25日までライブ映像の有料配信を行った。

9月には、2018年8月シアトル公演の模様が配信されていたが、今回は2016年4月の公演である。フィラデルフィア2デイズの2日目、彼らはデビューアルバム『Ten』を全曲再現する「The “Ten” Show」を披露した。バンド史上でも2度目のことだそうだ。

パール・ジャムには、例えばツアーごとに決まったセットリストが存在しない。彼らによるサウス・フィラデルフィア公演が10回連続ソールドアウトしたことを受け、当日朝のニュースの見出しで「10」の数字が目についたことから、急遽決定したセットリストなのだという。それに対応できるバンドの実力も含めて、いろいろと凄い話だ。会場には、ニュースと同様のトピックが記されたフラッグも掲げられていた。

ウェルズ・ファーゴ・センターのアリーナを埋め尽くす360°のオーディエンスに囲まれ、“Once”から始まったステージの配信だが、まず驚かされたのは音質と映像の素晴らしさだ。

マイク・マクレディとストーン・ゴッサードのギターが左右に振り分けられたステレオはもちろん、5.1chにも対応したサウンドミキシングはプロデューサーのジョシュ・エヴァンスが担当。11台のHDカメラによるきめ細やかで臨場感溢れる撮影と、編集クオリティにもため息が漏れるほどである。

『Ten』の頃のエディ・ヴェダーによる荒々しく命を削るような歌唱とはさすがに温度差を感じるが、楽しげな表情を浮かべて2曲目“Even Flow”あたりでエンジンが温まってくる。マイクの鮮やかなギターソロがスリリングなコンビネーションをリードしてゆくとき、MIKE IS GODの文字がプリントされたTシャツのオーディエンスが映り込む編集もナイスだ。

オーディエンスがいよいよ『Ten』再現ライブであることに気づいてどよめく“Alive”や、“Jeremy”といったシリアス極まりない詩情が、パール・ジャムのサウンド表現と相まってグランジ旋風の原動力となっていったことが思い出される。

ブルージーにして幽玄なギターフレーズに導かれる“Garden”の虚ろな表情、そして重厚なイントロから底無し穴を真っ逆さまに落ちてゆく“Deep”と披露したあと、エディは次の楽曲について語ろうとして言葉を詰まらせ、俯いてしまった。

『Ten』収録曲の数々に込められた、少年時代のつらい記憶を噛み締めていたのかもしれない。しかし顔を上げた彼は、それぞれに孤独感を抱えた人々が大音量の中で手を取り合うことの意味について語り、少し声を震わせながらアルバム最終トラック“Release”へと向かう。実父との距離感を率直に歌い込んだその曲で、大きなシンガロングが巻き起こるさまは感動的であった。思い返すこと2003年の日本武道館公演、オープナーはこの曲だった。

パール・ジャム、ライブ・デビュー30周年を記念した圧巻のライブ配信を敢行。5.1chサラウンドと11台のHDカメラが捉えた驚異のグルーヴを堪能した!

『Ten』完全再現は明らかにこの夜のハイライトだったが、ライブはそれでは終わらない。歴代のアップリフティングなロックンロール・ナンバーで本編にスパートをかけ、とりわけ“Let the Records Play”と“Spin the Black Circle”の連打には痺れる。

エディが客席に放り込んだマイクで、どこのハードコア系ボーカリストかという風体の男性オーディエンスが熱唱する一幕も表情からして最高だ。アンコールでは、ジェフ・アメンがアコギを奏でるレア曲“Bee Girl”からしっとりとしたアコースティック・セットが始まり、ピンク・フロイドの名演カバー“Comfortably Numb”(翌2017年、エディはデイヴ・ギルモアのシカゴ公演で共演することになる)も披露。“Given to Fly”や“Daughter”で追い込みをかける。

さらに、エディが往年のフィラデルフィア・フィリーズにも在籍した名打者ピート・ローズのレプリカジャージ(野球賭博容疑でメジャーリーグから追放されたローズを支援している)を羽織って始まったダブルアンコールでは、コンピ盤『ノー・バウンダリーズ』に提供した“Last Kiss”を届ける。


原曲を歌ったソウル歌手のウェイン・コクランは、2017年にこの世を去った。そしてニール・ヤングやデッド・ボーイズ、ザ・フーの楽曲も思い入れたっぷりにカバーし、最後には独立宣言の地=フィラデルフィアでマイクが“The Star-Spangled Banner”を大熱演してフィニッシュ。メモリアルな全32曲+αになった。

個人的に、パール・ジャムとの、そして『Ten』との出会いは奇妙だった。ムーキー・ブレイロックという名で活動していたバンドが改名してメジャーデビューを果たし、人気を博している。そんな零れネタのような小さなニュース記事を、確かバスケットボールの雑誌で読んだのだ。

良く知られる話だが、「10」とはNBAで活躍していたムーキー・ブレイロック選手の背番号である。来たる2021年、あのデビュー・アルバムはリリース30周年を迎える。待ちに待った新作『ギガトン』のツアーもままならない今日ではあるけれど、素晴らしいストリーミング技術を活かした新たなライブ映像コンテンツを楽しみにしたいし、願わくは、長らく果たされていないパール・ジャムの来日公演についても、辛抱強く期待したい。(小池宏和)

<SET LIST>

01. Once
02. Even Flow
03. Alive
04. Why Go
05. Black
06. Jeremy
07. Oceans
08. Porch
09. Garden
10. Deep
11. Release
12. Breakerfall
13. Corduroy
14. Who You Are
15. Let the Records Play
16. Spin the Black Circle
17. Do the Evolution

(encore)
18. Bee Girl
19. Just Breathe
20. All or None
21. Comfortably Numb (Pink Floyd)
22. Mind Your Manners
23. Given to Fly
24. Daughter
25. Rearviewmirror

(encore-2)
26. Last Kiss (Wayne Cochran)
27. Better Man
28. Leash
29. Throw Your Hatred Down (Neil Young)
30. Sonic Reducer (Dead Boys)
31. Baba O'Riley (The Who)
32. Yellow Ledbetter


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