シビれる自然分娩

椎名林檎『日出処』
2014年11月05日発売
ALBUM
椎名林檎 日出処
女の人生には考えるより先に大きな力が湧いてくる時がある。ひとつはまだ自分が何も手にしていないと感じ此処ではない何処かへ行かなければと夢を追い求める時。もうひとつは此処で生きよう、この手にある大切なものを必ず守りきらねばと思う母なる時。今作『日出処』の1曲目、“静かなる逆襲”を聴いた時、1stアルバム『無罪モラトリアム』の1曲目“正しい街”を思い出した。故郷と恋人に別れを告げて上京したかつての女の子が、今では《愛すべきひとと愛し合うまでよ邪魔しないで》と此処である東京を歌う。“ありあまる富”で柔らかなメロディラインの中に込めた、《僕ら》を守り《彼ら》を憎む眼差しの強さも母の本能そのもの。そして“ありきたりな女”でドラマチックに彼女はこう歌うのだ、《あなたの命を聴き取るため、代わりに失ったわたしのあの素晴らしき世界。》と。いつの間にか椎名林檎はシンガーソングライターというよりクリエイターという肩書きが似合う存在になっていたが、今作は、ああこれが椎名林檎だ、と体に衝撃が走る。内なる母性をその獰猛さや我儘さを含めありのまま、小粋に洗練されたポップ・ミュージックに託した。(上野三樹)
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