ところが全然違った。なんだこのラフな作りは。一発録音であることがモロにわかる演奏は、とても現役最高峰のヴェテランとは思えない荒っぽさ。音はかぶりまくり歪みまくり、典型的シカゴ・スタイルの演奏はラウドで荒々しく熱っぽく、御年73歳のヴォーカリストはバックの大音量に負けまいと力みまくって、シャウトして声が裏返ってる。完成度とかクオリティとか洗練とか、そんな言葉からはおよそ対極にある。
ヴェテランの筆のすさび、なんてとんでもない。この迸るエネルギーと傍若無人なド迫力は、むしろそこらのガレージで爆音を出してるチンピラ・バンドに近い。ジョン・スペンサーもハダシで逃げ出すような、ストライプスがチビって泣き出してしまうような、そんなモノホンのワルのパンク・ブルース。
年寄りのノスタルジーとはおよそ正反対。よくある原点回帰でもない。彼らにとってブルースとは、趣味ではなく武器であり、ブルースを演奏するときは嫌が応でも戦闘モードに入ってしまうのだ。その気になれば、いつだってこんな演奏はできるんだぜ。そう主張しているようにも見える。いやー恐れ入りました。(小野島大)