失敗もまた楽しい、ヒップホップ実験室

エイサップ・ロッキー『テスティング』
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ALBUM
エイサップ・ロッキー テスティング

エイサップ・ロッキーというラッパーがヒップホップの「進化史」的に面白いところは、この人は昔も今もニューヨークを拠点に活動しているけど、ラップのスタイルに、その「地元感」がまったく感じられない点だと思う。2011年にミックステープ『リヴ・ラヴ・エイサップ』で華々しくデビューして以来、彼は一貫して、その時代の「最先端」のプロデューサーやラッパーたちをいち早く見つけ出し、コラボしてきた。相手がどこに住んでても構わない。過去の実績も、音楽ジャンルも関係ない。ネットで見たよ! あれ超カッコいいじゃん! なんかいっしょに作ろうぜ! エイサップの音楽作りは、そんなピュアな「発見」から始まる。ある意味、SNS世代のヒップホップ界に生まれるべくして生まれた、究極のニュータイプなのだ。

本作は、そんなエイサップにとって約3年ぶりのリリースとなる3rdアルバム。「実験」という意味のタイトルがズバリ示すとおり、今回の彼は、自分の音楽的な好奇心を、これまでよりもさらに広いエリアで試している。FKAツイッグス、スケプタ(UKグライム界からの刺客)、フランク・オーシャン、デヴ・ハインズ(ブラッド・オレンジ)、コダック・ブラック、パフ・ダディ(!)などなど……と、新たなコラボ相手の名前を見るだけでもワクワクしてくるし、実際に仕上がった曲も、一般的なヒップホップの枠には当てはまらない野心的なトラックが多い。モービーの99年の名曲“ポルセリン”をサンプリングし、先行シングルとしても発表された“A$AP Forever”(あのPV、目が回るけど、めっちゃカッコいいよね)も、ここでは新たにT.I.キッド・カディがゲスト参加していて、攻めのニュー・リミックス版で収録されている。トータルの収録曲は、全15曲――すべての試みがうまくハマった、とは言えないかもしれない。でも、実験ってそういうものだ。失敗しなかった実験に、未来の成功はないんだ。

スケプタが客演した“Praise The Lord (Da Shine)”のとぼけたノリも楽しかったけど、ベスト・トラックはというと、やはりフランク・オーシャン参加曲の“Purity”になるだろう。ローリン・ヒルの“アイ・ガッタ・ファインド・ピース・オブ・マインド”をサンプリングしたこの曲では、エイサップにしては珍しく、名声や成功の代償をめぐる、ちょっと内省的なトーンのラップを聴くことができる。フランクとローリンに引っぱられた部分も多々ありつつ、このくらい「メランコリック」なモードのエイサップも、実は意外とありかも!?(内瀬戸久司)



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エイサップ・ロッキー『テスティング』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」8月号に掲載中です。
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エイサップ・ロッキー テスティング - 『rockin'on』2018年8月号『rockin'on』2018年8月号
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